組織のコンパクト化でスピーディな意思決定&製品開発を実現! 成約率アップのカギは「顧客状況の把握」と「自動化と人力の使い分け」
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社(東京都品川区)は、PostPet「モモ」で認知度の高い個人向けのインターネットサービス事業と、クラウド基盤の各種ITソリューションを提供する法人向け事業をビジネスの両輪とする企業だ。2016年5月、クラウド型勤怠管理サービス「AKASHI」をリリースし、BtoBビジネスの強化に取り組む中で、同社は営業・マーケティング上のどんな課題に直面し、それを克服してきたのか? 法人サービス事業部門bit-drive事業推進部クラウドビジネス開発課リーダー・渡邊謙人氏と、同課・國分康平氏に話を伺った。
お客様プロフィール
法人サービス事業部門bit-drive事業推進部クラウドビジネス開発課リーダー
渡邊謙人氏
同課
國分康平氏
設立 | 1995年 |
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従業員数 | 1002名(連結)、601名(単独) |
資本金 | 79億6,900万円 |
事業内容 |
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BtoBビジネスに注力するも組織上の課題に直面
- 富田
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はじめに御社のビジネスやサービスの特徴などについてご解説ください。
- 渡邊氏
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弊社は2016年7月、「ソネット株式会社」から現社名に変更し、現在、BtoBビジネスの強化に取り組んでいます。具体的には、「So-net光」など、売上の多くを占める個人向け事業と並ぶもう1本の柱を育てるべく、法人向けサービスとして、インフラ整備からサイト構築までをワンストップで提供するインテグレーション事業、およびクラウド基盤の各種ITソリューションで構成されるbit-drive事業を展開しています。
BtoBビジネスの当面の売上目標は高く設定していて、その一翼を担うのが、bit-drive事業のひとつとして2016年5月にリリースしたクラウド型勤怠管理システム「AKASHI」です。 - 國分氏
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補足すると、もともと弊社は、クラウドという言葉がまだなかった2004年から、「インターネットタイムレコーダー」というASP型勤怠管理システムを提供してきました。しかし近年、この市場にベンチャー企業などが続々と参入し、サービス単価がどんどん下がってきました。弊社はそうした状況に追いつけていないという反省から、市場の成長に合わせて体制と製品を抜本的に見直すことを決め、1年がかりで「AKASHI」の開発を進めてきました。
- 富田
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確かに今、弊社のITトレンドの全カテゴリーの中で、勤怠管理システムの領域はもっとも多くの企業が参入している激戦区のひとつです。そういう市場に対応するために、あえて「ソニー」「インターネットタイムレコーダー」といった既存の看板に頼らず、ブランディングから再構築して新たなスタートを切ったということですね。では、その中でどんな課題に直面しましたか?
- 渡邊氏
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ひとつは製品に関する課題です。勤怠管理という領域は、企業によって管理手法がさまざまで、システムに対するお客様のご要望が多岐に渡ります。「インターネットタイムレコーダー」は、そうしたリクエストに応えて機能を追加していく丁寧なカスタマーサポートでご好評いただき、そこが他社製品との差別化要因になっています。しかし、お客様の声を次々に製品に反映させたことによって、システムが肥大化し、逆に使いづらくなってしまった側面もあります。
そしてその背景には、組織面の課題がありました。従来のbit-drive事業推進部は約150名の大所帯で、営業・開発・企画と縦割りの組織でした。そのため、社内コミュニケーションがなかなかうまくいかず、お客様からご要望のあった機能の中で必要なものとそうでないものを選別して意思決定したり、すぐに製品開発につなげたりするのが難しい状況だったのです。
組織をコンパクト化しつつ顧客サポートの品質を維持
- 富田
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そうした課題に対し、どんなことに取り組まれましたか?
- 渡邊氏
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まずは市場の成長やお客様のニーズに即応できるようにするための組織改革です。「AKASHI」の事業をよりスピーディに進めるため、事業部門をコンパクト化し、かつあらゆる機能を持たせることにしました。
- 富田
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どんな構成にしたのですか?
- 渡邊氏
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インターネットタイムレコーダーの事業運営にあたっては、企画、技術開発、マーケティング、営業、カスタマーサポートと一連の事業活動における機能に対する責任を、それぞれの組織毎に割り当て運営していました。
「AKASHI」の事業に関しては、事業を運営する事業ユニットに事業そのものの収益目標と責任が割り当てられ、ユニットに所属し各機能を担う担当者がその共通の目標に向かって最適な活動を推進していくという体制が敷かれました。
- 富田
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まるでひとつのベンチャー企業という感じですね。それで実際にどうなりましたか?
- 渡邊氏
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これにより以前よりもコミュニケーションがはるかに活発化し、意思決定したり、お客様の声を製品に実装したりするスピードが格段に速くなりました。また、マーケティングに関しても、従来とは異なり、現場に裁量権が与えられたことによって、失敗してもすぐ新しいことに挑戦するという、トライアンドエラーをしやすくなったと感じています。
- 富田
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それは大きな変化ですね。ただ、そういうメリットの反面、人員の限られた体制では、リソースの問題で大変な部分もあると思いますが......。
- 渡邊氏
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ええ。先ほどお話ししたように、「インターネットタイムレコーダー」については、社労士による導入支援など、お客様に寄り添ったサポートが他社製品との大きな差別化要因になっています。「AKASHI」でもそこは踏襲したいと考えているのですが、ご指摘の通り、この事業規模では厳しい部分があります。もちろん、サポートを必要とせずにお客様に使っていただけるユーザーインターフェースの優れた製品を作るのが理想ですが、なかなかそううまくはいきません。そこで弊社では、サポートの充実を図るため、お客様からのお問い合わせに対し、すぐに回答できるような仕組みを取り入れています。
- 富田
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それはどんな仕組みですか?
- 國分氏
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カスタマーサポートに特化した社外のサービスを利用し、従来の電話やメールに加え、チャット形式でのお問い合わせにも対応できるシステムです。たとえばお客様が操作に迷われた際、そのページからお問い合わせいただければ、どのページからのお問い合わせであるかをコンタクトセンター側で瞬時に把握でき、問題をすばやく解決することができます。
- 富田
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限られた人員でもお客様をサポートできるわけですね。
- 渡邊氏
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はい。また問い合わせの内容を定量的に分析でき、本当にお客様の求めている機能に開発を専念する事もできます。もちろん今後も引き続き、お客様一人ひとりに寄り添ったサポートという優位性については追求していかなければならないと考えています。
"自動化"と"人力"を使い分けリード獲得に注力
- 富田
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クラウドサービスは、いつまでに黒字化させる、という見通しが非常に難しいビジネスです。「AKASHI」についてはどんな目標を設定していらっしゃいますか?
- 渡邊氏
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売上を伸ばすためには、やはりリード数とトライアルの利用数を増やすことが重要ですから、当面はリード数を現状の4~5倍、トライアル数を3倍程度まで増加させるのが目標です。
- 富田
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そのためにどんな施策に取り組んでいらっしゃいますか?
- 渡邊氏
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まずリードの獲得については、リスティング広告を始めたばかりで、現状では御社のITトレンドへの掲載が中心です。おかげさまで、見込みのお客様がITトレンド経由でトライアルへスムーズに進んでいく流れはできています。
- 富田
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それはうれしいですね。
- 渡邊氏
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そこから成約までオンラインのみで完結できれば理想的です。ただ、「AKASHI」はリリースから間もたっていませんし、リリース後お客様からのフィードバックを元に各機能を育てていく方針の為、まだ完成しているとは言えません。ですから、機能に不足を感じる方に対しては営業が判断して従来の「インターネットタイムレコーダー」をおすすめするなど、成約までの過程で必ず人が入って、お客様に最適なサービスを提案するよう心がけています。
- 富田
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確かに効率化や自動化は重要ですが、中にはそれを嫌い、いかに人間がちゃんと対応しているかを見ているお客様もいらっしゃいます。手間をかけるところとかけないところとを明確に区別するのが大切ということですね。そのほかにどんなことに取り組んでいらっしゃいますか?
- 渡邊氏
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今年度の展示会への出展計画はありませんが、オフラインのプロモーションという意味では、たとえば街頭や主要都市の駅構内にブースを構えるといった施策をいくつか検討中です。インターネット回線やBtoC商材ではそういうキャラバン的な営業をよくやりますが、もともと弊社もそうですし、何よりシステムの管理者だけではなく、日々システムを利用する利用者の方にAKASHIの使いやすさを実際に体感してもらいたいと思い、そうした新しいことにチャレンジしたいと考えています。
「トライアル~成約」の工程をスクリプト化
利用状況の即時把握が成否のカギ
- 富田
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トライアルに関して何か工夫されていることは?
- 國分氏
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ひとつは、入り口のハードルを下げることです。AKASHIは本当に使いやすいシステムを目指している為、まずはその使いやすさを体感してもらう。法人向けサービスの大半は、トライアルの申し込みの際の入力項目が多く、そこがお客様の大きな離脱ポイントになっています。そこで「AKASHI」については、企業名とメールアドレスだけを入力すればトライアルの仮登録が完了するという、極力シンプルな形にしています。
- 富田
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そのぐらいなら手間もかかりませんし、あまりうるさく営業されたくないという方でも気軽に登録できますから、トライアル利用数は相当伸びるでしょうね。
- 國分氏
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はい、それが2か月間でトライアル利用数約130社という実績のひとつの要因になったと考えています。
- 富田
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トライアルの期間についても伺います。試用は30日間という製品も多い中、60日間を選んだ狙いは?
- 國分氏
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新サービスの使い方などついて社員に教えるだけでもすぐに2週間ぐらい経ってしまうので、30日間だと操作性や利便性を体感するだけで終わってしまいがちです。それに対して60日間なら、月次をまたいで給与データなどを算出し、実際の業務で使えるかどうかを判断できます。
- 富田
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ユーザーの視点に立った、非常に重要なポイントですね。トライアルを利用されたお客様の成約率はどのぐらいですか?
- 渡邊氏
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現在は目標としている数字には至っていませんが、「AKASHI」の機能が100%に近づく来年以降に、向上させる計画です。現状、トライアルご利用開始から然るべきタイミングでコンタクトセンターから電話をかけ、その内容次第で本導入を促すという営業手順に従って活動していますが、今後はその精度をいかに上げるかが重要だと考えています。
- 富田
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弊社にとっても悩ましいところですが、最初にお問い合わせいただいた方と現場で利用される方が違っていて話がうまく通じなかったり、トライアルが始まっても実際にはあまり使っていただけなかったりするケースが非常に多いですよね。
- 渡邊氏
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そこは今後の課題ですが、どのお客様が使っていないか、どこでつまずいているかを自動的に検知して営業やコンタクトセンターに連絡し、コミュニケーションを始められるような仕組みを早急に作りたいと思っています。
- 富田
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トライアルの利用状況をリアルタイムに把握し、それに応じて営業手順を変えたり、お客様への講習を実施したりできるシステムを整備するわけですね。
- 渡邊氏
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はい。人員や予算が限られる中、営業がお客様を訪問してじっくり対応するという従来のような手法は難しいので、そこをいかにシステム化するかがカギになると思います。
単なる「勤怠管理」に留まらず
"時間管理のデファクトスタンダード"を目指す
- 富田
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そのほかに、営業・マーケティングにおける今後の展開として考えていらっしゃることは?
- 渡邊氏
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見込みのお客様の育成ですね。先ほどお話しした通り、トライアルを利用されたお客様の成約率はまだ向上させなければなりません。ここをどう活性化させるかが大きな課題です。
その前提として、まずは弊社と「AKASHI」の認知度を高めると共に、潜在的な見込み顧客との関係を強化する必要があると考え、2016年2月に「somu-lier」というオウンドメディアを立ち上げました。総務部門の方が課題と認識しているテーマに沿ったコンテンツを提供し、潜在的なお客様が"ホット"になった瞬間をとらえ、検索エンジンの最適化や直接的なコンサルティングでコンバージョンに結びつける。そういう未来図を描いているのですが、まさに今その実現に苦戦しているところです。
- 富田
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なるほど。では、より大きな観点で、御社はどのような方向へ進んでいかれるのでしょうか。
- 國分氏
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「AKASHI」というサービス名は、日本標準時子午線の通る兵庫県明石市から名づけました。そこには、あえて勤怠管理システムを想起させず、「時間に関するサービスのデファクトスタンダード、事実上の"標準"を目指す」という思いが込められています。今後は、勤怠管理に限らず、「時間」というより大きな枠組みで、時間に関する世の中のあらゆるサービスに対してソリューションを提供したいと考えています。
- 富田
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確かに、企業の生産性を向上させるには、時間の管理がきわめて重要です。その反面、マネジメント層の中にも、自分の時間の使い方を正確に把握していない人や、効果的なところに時間を使っていない人が意外と多い。「非効率な法人営業を効率化し、BtoBマーケティングの変革を目指す」という弊社のビジネスのテーマにも直結する、非常に興味深いお話です。
- 渡邊氏
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弊社自身も最近、コミュニケーションが活性化したことによって、議論の時間が増えた分、手を動かす時間が犠牲になっている側面があります。限られたリソースで成果を出すには、そうした部分の見直しが必要ですね。
- 富田
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御社の取り組みは、大企業におけるベンチャーや新規事業の立ち上げの事例として大いに参考になると思います。貴重なお話をありがとうございました。
編集後記
新規事業の立ち上げにあたり、ベンチャーのようなコンパクトな組織を立ち上げられました。意思決定のスピードアップを上げ、顧客の声をサービスに反映し、新たなマーケティングにもどんどん挑戦していく。大手企業だけでなくベンチャーの私たちにも参考になる事例です。ご協力ありがとうございました。