ライフタイムバリュー(LTV)の視点で既存顧客と付き合う

いま、これを読んでいるあなたは、「新規開拓コスト」の増加に悩んでいませんか。市場のパイが縮小していたり、競合がひしめき合っていることでパイの奪い合いが激化していたり、そんな環境に置かれていませんか。もしそのような状況なら、「LTV(顧客生涯価値)」を高めると良いかもしれません。
ライフタイムバリュー(LTV)とは?
ライフタイムバリュー(LTV)とは「Life Time Value」の略で、日本語では「顧客生涯価値」と訳され、ある顧客がサービスの取引期間中、すなわち契約から解約(他、競合へスイッチするなど)までに企業にもたらす利益のことを指します。一般的に顧客ロイヤリティの高い企業ほど収益性は高いとされ、ロイヤリティの高い顧客は取引期間を通じて企業に大きな利益をもたらします。LTVは顧客ロイヤリティを高めていくことによって顧客との長期的な関係の上で大きな利益創出を期待できる、という考え方に基づいています。
従来、売上や利益を上げるためには『市場の「シェア」をいかに獲得するか』と考えられてきました。例えば、あるエリア内での占有率や、ある年での純増分のシェアなど、「その時」にものやサービスがどれだけ売れているか?という視点です。そのため、このシェアを高めるためにはいかに「マス」に対して訴えかけ、シェアを高めるかが重要でした。しかし、市場が成熟し、競争相手も増える中で、新規顧客の獲得は加熱していきました。そこから生まれたのが、一人の人間や一つの企業の「時間軸でのシェア」 即ち「LTV(顧客生涯価値)」を高める考え方です。
BtoBでLTVが重要視される背景
①新規顧客獲得コストの上昇
BtoBにおいて、競争の激化や安価なサービスの台頭により、新規顧客獲得にかかるコストが相対的に増加しています。そのため、新規顧客から得る売上よりも、既存顧客の維持から得る売上によって収益を図る方が安定した経営ができると考えられるようになったことが、LTVが重要視されるようになった背景として挙げられます。
新規顧客を獲得するコストは、「1:5の法則」にもあるように、新規顧客を獲得するには、既存顧客維持コストのの5倍とも言われ、市場シェアの追求から顧客シェア(ある顧客が購入する商品のうち自社商品の占める割合)の拡大に、考え方が徐々にシフトしてきている背景があります。
②クラウドサービスの普及
LTV(ライフタイムバリュー)の考え方は、元来BtoCマーケティングの領域で唱えられてきた考え方ですが、BtoBマーケティングの領域でも重要視されています。その背景には、クラウドサービスなどの台頭により「買い切り型の製品の利用」から「継続的なサービスの利用」というシーンが増えてきたことも挙げられます。
クラウドやASPサービスは、最低利用期間経過後は月単位での継続契約に以降することが多く、解約や競合へのスイッチが従来よりも容易になったため、顧客ロイヤリティを高め競合への離反を防止しすることが非常に重要になってきています。
LTVの計算方法と分析方法
LTVを求めるための計算式は以下となります。今回は月額利用型サービスのケースを例にご紹介しましょう。
しかし、これは一社あたりのLTVを求める計算式にすぎないため、マーケティング面では新規顧客獲得コストといった点も加味して分析しなければなりません。例えば、LTVを最大化するには顧客維持率を高めることがポイントとなりますが、そのためにコストをかけすぎると顧客維持費用が増えてしまい、収益率が低下することにもなります。したがって、実際には以下2つの計算結果を分析することになります。
- LTV=平均顧客単価×平均継続期間×収益率÷新規顧客獲得コスト
- LTV=平均顧客単価×平均継続期間×収益率÷既存顧客維持コスト
上記の2つの計算結果を比較して、新規顧客創出へのコストと既存顧客維持へのコスト投下のバランスを考えていく必要があります。
また、さらに分析を深める場合に「デシル分析」というものがあります。これは、全顧客を10等分してグループ分けすることで、各グループの特徴を分析する手法です。
例えば、500社のお客様がいるとします。そのうち上からA、B、C...と10等分(50社ごと)に分けて下さい(10で割り切れない数字は数の少ないグループをつくって調整しても構いません)。このグループごとにLTVを出すことで、どのグループが売上や利益に貢献しやすいのか、また、そのグループの獲得・維持にはどれだけ費用をかけられるのか、分析することが出来ます。
LTVを高める方法
LTVを高めるためには、いくつかの考え方があります。
-
- ・購入単価を高める
- ・購入頻度を高める
- ・継続期間を伸ばす
- ・新規顧客獲得費用を減らす
- ・既存顧客維持費用を減らす
ここでは、LTVを高めるための重要なシーンをご紹介しましょう。
①サポートシーン
LTVを高めるために最も重要なのはサポートシーンです。クラウドやASPサービスは1社当たりの売上が少額なため、ついサポートが手薄になりがちです。私は月額型のクラウドサービスをこれまで営業してきましたが、多くの企業が現在利用しているサービスのサポート不足を指摘しています。お客様がよく口にしていたのは、「受注するまでは営業がよく連絡をくれたが導入後はぱったりとなくなった」、「質問窓口があるものの、回答までに時間がかかったり、対応がそっけない」などです。
いくらサービス自体に価値があっても、実際に利用するのは"人"であるため、このようなサポート面での質の悪さが解約や競合へのスイッチのトリガーとなるのが現実です。サポート面の充実は、LTVを最大化する最も重要な要素と言えます。また、営業現場では事前にサポート面についてしっかりとお客様にお伝えすることも重要と言えます。サポート面に不満を感じている原因のひとつには、契約前に持っていたお客様の期待値と、契約後に感じた実際のサポートとの乖離があります。営業現場の期待値調整も、LTVを高めるためには必要な要素といえます。なお、前述の通り顧客維持にコストをかけすぎると顧客維持費用が増えてしまい、収益率が低下することにもなり兼ねませんので、サポート体制の構築には工夫をしていく必要があります。例えば下記のような体制で、できるだけ工数をかけずに満足度の高いサポートを行うという視点も重要です。
- ・テレビ会議/Web会議を利用して準対面サポートを行う
- ・利用顧客を一同に集めて活用セミナーを行う
- ・利用手引きはFAQを充実させる
満足度の高いサポートを、できるだけ工数をかけずに提供することで、顧客の離反を防ぎ、LTVを高められるといえるでしょう。
②顧客の声をサービスに反映させる
クラウドやASPサービスの領域であれば、日進月歩で技術が進歩しているため、安価で高機能な競合が台頭してくる可能性は非常に高いといえます。したがって、競合の分析もさることながら、顧客が本当に必要としていることは何かを的確に捉え、サービスに反映していくことも、解約や競合へのスイッチを抑止する手段として重要です。
常に顧客のニーズにこたえられるサービスであることで、顧客に選ばれ続けることができるでしょう。
LTVと値引きの考え方
最後に、LTVは営業現場でどの程度値引きをしても許されるかといった基準を決める際にも有効です。基本的には値引きをして受注をすることは営業力の低下を招く要因にもなり、組織としては表立って許容すべきではないと筆者は考えますが、ビッグクライアントや取引額の大きい企業にはどうしても値引き対応をする必要がある場合もあります。
そこで、どこまで値引きが許容できるかのルール決めのためにもLTVを用いて考えます。単純に「ビッグクライアントだから」、「取引額が大きから」といった理由で値引きを決めるのではなく、「この顧客のLTVは●●円だから、ここで失注して新たな顧客開拓にコストを投下するよりも、●●円までなら値引きをして受注した方が相対的には利益をもたらす」といった決め方です。このような意識を営業現場レベルでも持てると、目標の受注額に対してどのような活動をすべきなのか、また自身の営業活動やその他の販促にかかった費用を踏まえ、どこまで値引きが可能なのかといった事業数字や会社全体の数字を考える癖がつき、営業のレベルアップにもつながります。
まとめ
BtoBではBtoCと異なり、ターゲットになる顧客が限られている場合が多いかと思います。そのため、その限られた市場の中で「いかに価値を感じていただき、長く太くご利用いただくか」というLTVの考え方は非常に重要になります。材料は貴社内にあるはずです。まずは、貴社顧客のLTV(ライフタイムバリュー)を分析するところから始めてみませんか。
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