【前編】自治体が取り組む前例なきデジタルマーケティング MAとの出会いが企業誘致活動に革新をもたらす
すべての都道府県と政令指定都市、ならびに一部の市町村は、都内に東京事務所を設置しています。札幌市東京事務所(東京都千代田区)もそのひとつで、活動内容は中央省庁との連絡調整や情報収集、シティPRなど多岐にわたります。
その中で、シティセールス部門の柱の一つは、多くの自治体に共通する重要な課題である「企業誘致」です。今回は、この企業誘致活動にデジタルマーケティングを取り入れた事例として、同事務所シティセールス担当課長の北川雄次郎氏に、自治体としては異例といえるこの取り組みを始めた経緯や、これまでの成果などについて聞きました。(インタビュアー:営業担当 北島、Urumo!編集部 遠山)
お客様プロフィール

シティセールス担当課長
北川雄次郎
事業内容 | 中央省庁との連絡調整や情報収集、シティPR、企業誘致など |
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札幌市の強みを活かし、IT企業の誘致を推進
- 遠山
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はじめに、札幌市の企業誘致活動について教えてください。
- 北川氏
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企業立地の観点から、札幌市の強みは「高い人材供給力」と「低い災害リスク」にあると考え、それらを訴求するための活動を行なっています。
また、AIビジネス創出・振興を目的とした産学官の連携組織「SAPPORO AI LAB」や、ビジネスコンベンション「No Maps」などの地元の取組を紹介しながら、札幌市のビジネスシーンをアピールしています。
- 遠山
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主なターゲットは?
- 北川氏
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IT企業やバイオ系企業を考えています。その理由の一つは、札幌市にとって、理系人材の流出は大きな課題であり、これらの企業は、人材の受け皿となっていただける存在であるから。
次の理由としては、先ほど触れました「SAPPORO AI LAB」など、地元の産学官連携の取組と立地企業のコラボレーションにより、更なる地域の経済の活性化を狙っていることにあります。
- 遠山
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SAPPORO AI LABとして特徴的に取り組まれていることはありますか?
- 北川氏
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はい。人材育成を目的としたプロジェクトを実践しています。
例えば、AIによる画像解析技術を使って医薬品の在庫を管理したり、遠赤外線カメラを搭載したドローンを飛ばして、森に潜むエゾシカやヒグマの生息状況を把握したりするなど。そういったプロジェクトを回す地元IT企業に対して、メンターがマネタイズも含めたアドバイスを行っています。また、技術者を対象としたAI開発等の技術講座や、実際のビジネスでAIを活用するための知識等を学ぶ講座など、難易度や内容別の研修プログラムを展開し、先端技術を活用したビジネスを展開するためのスキル向上による競争力強化にもとり組んでいます。
※SAPPORO AI LAB...2017年6月に設立された産学官連携でAI技術の活用をサポートする組織で、札幌市は事務局を担う。AI関連技術を活用した新たなビジネス創出の促進や、AI関連人材の確保・育成及び更なる集積を目的としている。
SAPPORO AI LAB※No Maps...2016年10月に初開催されたビジネスコンベンション。先端技術やコンテンツ、サービスを中心にセミナーや展示、イベントを通して、様々な人達が交流することにより、新たなビジネスを生み出し、全く新しい産業を創出することを目的に開催している。
今年度は2018年10月10日~14日までの5日間、市内中心部各所において事業を展開。
No Maps
新規見込企業開拓の限界、効率的な営業活動が必要に
- 遠山
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企業誘致活動に取り組む中で、どんな課題を抱えていましたか?
- 北川氏
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効果的な新規見込企業の開拓です。企業にとって拠点の開設は、サービスや物品の調達といったケースよりも高度な経営判断が必要ですから、私たちの見込となり得る企業の数は限定的です。そういう状況を前提としつつ、限られた予算と人的リソースの中で、如何にして効率的に新たな見込となる企業と出会うか。そこが大きな課題でした。
- 北島
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当時、具体的にはどんな手法で見込み企業との接触を図っていましたか?
- 北川氏
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IT系の展示会へ来場者として参加して出展企業の名刺を集めたり、アンケートによって企業のニーズを把握したりするとともに、来訪の機会を打診するといった手法です。
- 北島
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アンケートというのは、企業に対して地方進出のニーズがあるのかどうかを測るものですか?
- 北川氏
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そうですね。たとえば、特定の分野の法改正定を受けて、対象となる業種のニーズが高まっているだろうと思われるタイミングでアンケートを行いました。このケースでは、アンケートの回収率を上げることはできましたが、北海道・札幌で拠点開設の検討を行う企業とは出会えませんでした。
- 北島
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その理由はなんだったとお考えですか?
- 北川氏
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やはり可視化されていなかったからだと考えていますが、暗中模索していた結果ですので、やむを得ないところだと思っています。Webサイトを通じて解析すれば可視化できるという知識を持ち合わせていませんでしたので、見えないところで仮説を立て実行に移すという手法を取ることに違和感はありませんでしたからね。
衝撃的だったデジタルマーケティングとの出会い
- 遠山
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そうした中で、デジタルマーケティングに着目したきっかけは?
- 北川氏
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たまたま参加した展示会で、Web解析というものを知りました。デモを見ると、Webサイトへのアクセス経路などの情報が一覧表示されていたのです。「課長!すばらしい仕組みと出会いました!」と興奮した部下から報告を受けましたよ。私たちにとってはそれまで推測、仮説でしかなかったものがはっきりと可視化されていたわけですから。
- 遠山
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それまではデジタルマーケティングにあまり注目していなかったのですか?
- 北川氏
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昨年の3月まで企業誘致のWebサイトが、その他の市政情報と一体となっていたこともありまして、我々の活動の中で、このサイトを活用することは念頭にありませんでした。
マーケティングの全体像を描くところからスタート
- 北島
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具体的にどんなところからデジタルマーケティングに取り組み始めましたか?
- 北川氏
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まずは展示会やセミナーへ通って、いろいろなサービスに触れながら、デジタルで何ができるかという知見を蓄えていきました。広告やコンテンツマーケティング、テレマーケティングなどにも関心の対象が広がり、だんだんと施策の全体像を描けるようになりました。
- 遠山
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自治体としては前例がない中で情報を収集し、事前に施策の全体像を描くのは大変だったのでは?
- 北川氏
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まず、現状の把握と課題の整理から始めました。実際に札幌市に拠点を設置した企業のほとんどは、企業側からの問い合わせを契機として接触が始まっており、そこから見えてきた課題は、問い合わせ以外のアプローチ手法の確立です。
限られたリソースで最大の効果を上げるには、デジタルマーケティングを活用して、札幌市のWebサイトへのアクセス動向を「見える化」することと、ターゲットに的確に訴求して有望企業の「すそ野の拡大」を図ること、このふたつを実現する仕組みが必要であると考えました。
- 北島
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ご提示いただいたマーケティングイメージを最初見たとき、本当に感動しました。
- 北川氏
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部下が本当によく頑張ってくれました。展示会やセミナーでキーワードを拾い集めて、それらについて部下と議論しながら、パズルのピースのように全体像に当てはめていったイメージです。
- 北島
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実際の導入に当たっては、さまざまなハードルがあったと思います。どんなことで苦労しましたか?
- 北川氏
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仕組み作りを手探りで進めなければならないことと、セキュリティや契約にともなう手続きが未知のものだったことですね。札幌市はもちろん、他の自治体でも、こうしたツールを本格的に導入している例をあまり聞いたことがありません。事例がたくさんあれば、もっとスムーズに導入作業を進められたのではないかと思います。
成果の見える化が上司の理解を
- 北川氏
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確かに手間はかかりましたが、デジタルマーケティングが必要である、という考え方自体を周囲から否定されたことはありませんでした。ありがたかったのは、導入によって「見える化」が進み、明らかに成果を上げやすくなるということを、上司が理解してくれたことです。また、セキュリティの担当者も、承認が通りやすい方法をアドバイスするなどして応援してくれました。そうした上司や関係者の協力があったからこそ導入を実現できたのだと思いますし、周囲の説得に苦労したとか、そういう意味での苦労はなかったというのが実感です。
- 遠山
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自治体というと、新しい取り組みに対して慎重なイメージがありますが、むしろ組織が一丸となって後押ししてくれたと。
- 北川氏
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そうですね。決して頭の固い組織ではなく、手続きさえ踏めば新しい取り組みに寛容な組織だということを、私自身改めて認識しました。
編集後記
後編では、実際に取り組んでいるデジタルマーケティングの手法や今後の展望について、お話しいただきます!