ドアインザフェイスとは?フットインザドアとの違いや具体例を解説

営業活動は、人と人との心理戦です。商談で交渉し、自分に有利な立場を築きつつWin-Winの関係に持ち込まなければなりません。
その際有効になるのが、行動心理学です。行動や心理に対して科学的にアプローチして導き出されたテクニックは、どのようなタイプの顧客に対しても応用することが可能です。営業テクニックを身につけておけば、自分にとって有利な状況を自ら作り上げやすくなります。
ここでは、行動心理学の中でも営業で役に立つ「ドア・イン・ザ・フェイス」と「フット・イン・ザ・ドア」について詳しく解説していきましょう。
ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的依頼法)
意味とメリット
ドア・イン・ザ・フェイスは、譲歩的依頼法とも呼ばれており、「shut the door in the face(門前払いする)」という訪問販売時のフレーズが由来です。
「返報性の原理」を応用したテクニックで、譲歩を利用して相手と交渉します。返報性の原理とは、プレゼントをもらったら、何かお返しをしなければと思うように、「何かをしてもらったら何かをしたくなる」という心理現象のことです。相手が譲歩してくれたら、こちらも譲歩しなければ相手に悪いと思わせる交渉術を利用して、最終的なこちらの希望を承諾してもらうテクニックなのです。
例えば、営業で高めの見積額を提示したとします。相手は「これじゃあちょっと高すぎるなあ。もう少し値引きしてくれない?」と言うでしょう。そして、こちらは値引きに応じます。すると相手は、「せっかく値引きして安くしてもらったし、発注しようかな」と思います。そうすることで、最終的にこちらが心の中で希望していた金額で受注することができるのです。
またドア・イン・ザ・フェイスには、相手に満足感を味わってもらえるというメリットがあります。「交渉した結果、自分に有利な結果にすることができた」と感じてもらえることができるため、営業側としては想定通りの交渉の流れであっても、お客様には喜んでもらえるのです。
活用シーン
ドア・イン・ザ・フェイスを活用する場合は、返報性の原理を意識することが重要になります。例えば、「15万円の受注を得たい」という目的がある場合を見てみましょう。
- 営業:「すべてのカスタマイズをつけると25万円になります」
- お客様:「費用対効果が見えないので、いきなり全部導入するのは難しい」
- 営業:「では、まずはスモールスタートとして、最低限の機能に絞った15万円のプランはいかがですか?」
はじめから15万円のプランでは難しくても、まず25万円の提案を断ってもらうことで、そこから大幅に値引かれた印象になるため、相手も納得して発注しやすくなります。
注意点
営業として身につけておきたいドア・イン・ザ・フェイスですが、実際の交渉で使う際には、下記の点に気を付けましょう。
はじめの要求は高くしすぎない
ドア・イン・ザ・フェイスを使うには、最初の要求は断ってもらわなければならないので、あまり低くては想定通りに交渉が運べなくなります。しかし断られるためといって、無理難題ともとれるような要求を提示しては、相手に不快感を与えてしまい、そもそもその後の交渉にも進めません。
ポイントは、高すぎず低すぎず、断ることで相手が罪悪感を持てる要求にすることです。
次の要求まで間を開けない
相手が罪悪感を持っている間に、交渉を進めましょう。例えば2度目の見積の提示に1週間かかってしまっていては、相手の罪悪感も薄れてしまいます。「次も断ったら申し訳ない」と思ってもらえている間に、はじめより低く設定した要求を提示しましょう。
同じ相手に何度も使わない
交渉がうまくいくからといって同じ相手に多用していては、相手に気付かれてしまい、本来の目的も通らなくなってしまいます。相手との関係性や交渉頻度を踏まえた上で、効果的と思われる場面で活用しましょう。
フット・イン・ザ・ドア(一貫性の原理)
意味とメリット
フット・イン・ザ・ドアとは一貫性の原理と言われ、訪問販売の時に「お話だけでも!」と、ドアに足を挟み込む手法が由来となっています。
一度イエスと言ったらノーと答えにくくなるという心理を活かしたテクニックで、小さなことから相手の「イエス」を積み重ね、「ノー」と言えないようにして、相手の意思でその答えに行き着いたという状況に持ち込みます。
人は言動と行動に一貫性がある人が信頼のおける人と無意識に思っています。小さな要求にイエスと言っておきながら、その小さなイエスと関連の深い大きな要求にイエスと言わなければ、一貫性がない人、つまり信用のおけない人になってしまいます。そんな人間だと思われたくないという心理を利用しているのです。
活用シーン
フット・イン・ザ・ドアを活用する場合は、小さな提案から大きな提案につなげることを意識することが重要です。
例えば、飛び込み営業で企業に訪問したとします。
- 営業:「5分だけお話させてもらってもいいでしょうか?」
- お客様:「あんまり時間がないから5分だけね」
- 営業:「今、このサービスは無料キャンペーンをやっておりますので、一度試してみませんか?」
- お客様:「無料なら使ってみようかな」
- 営業:「使い勝手はいかがでしょうか?契約されますか?」
- お客様:「そうですね」
このように、5分だけ話すというハードルをクリアすれば、提案の可能性が格段に高まることになります。
次に、継続的な契約にしたい場合を見てみましょう。
- 営業:「2週間は無料でご利用いただけますので、まずは使ってみませんか?」
- お客様:「無料なら試してみようかな」
- 営業:「この商品は1か月単位で契約できます」
- お客様:「じゃあとりあえず1カ月だけ」
- 営業:「3か月契約ですと、新規取引キャンペーンの対象になるので10万円でご提供できます」
- お客様:「それなら3カ月契約にします。」
このように、最終的な目標を達成するまで小さな提案を積み上げていくのがポイントです。
営業活動に行動心理学を活用しよう
ただストレートに「契約してください!」と言うだけでは、相手もなかなか承諾しないでしょう。
「ドア・イン・ザ・フェイス」や「フット・イン・ザ・ドア」といったテクニックを利用して交渉を進めることで、自分に有利な状況を作り上げることが重要です。ただし、あまり露骨に使ってしまっては、相手からの信頼を損ねてしまいかねません。相手や状況、要求の加減を見極めて使うようにしましょう。
ぜひ、自分に合った営業テクニックを身につけて、成果につなげてみてはいかがでしょうか。