SPIN営業とは?~営業ヒアリングを効率化しよう~

「営業には、トーク力よりも"聞く力"が大切」という話をよく聞きます。決しておしゃべりが上手な営業マンばかりが良い成績を出すわけではありません。例えば、ひたすら一方的に商品の説明をされても、顧客の買う気がなくなってしまうということもあるでしょう。
「営業は"聞く力"から始まる」とも言われるほど、「聞く」という力が重要なのです。 そこで今回は、この営業にとっての「聞く力」をもう少し掘り下げて、この「聞く力」をどう捉えるべきか、商談の規模を軸にして考えてみたいと思います。
SPIN営業法とは
《SPIN営業法》をご存知でしょうか?関連する書籍も沢山出版されていますが、セールスパーソンの行動様式を統計分析した英国人行動心理学者のニール・ラッカム氏により開発・体系化された、商談を成功させるために必要なセールスの技法です。SPIN法やSPIN話法と呼ばれることもあります。
簡単に言いますと、
- ・状況質問(Situation)→顧客の現状を理解する
- ・問題質問(Problem) →顧客のニーズを明確にし、気付かせる
- ・示唆質問(Implication)→問題の重要性を認識させる
- ・解決質問(Need payoff)→理想の状態をイメージさせる
という段階があり、SPINの順に質問を展開していくことで顧客の要望や潜在ニーズを引き出す営業手法です。
商談を成功させるためには、顧客のニーズに合わせた提案を行う必要があります。この顧客ニーズを理解するためにはヒアリング力が重要となり、SPIN法はヒアリング力を高めるテクニックであるといえます。
SPIN法が必要とされる理由
では、このSPIN法が必要とされている理由についても見ていきましょう。
顧客ニーズを引き出せる
SPIN法を活用する目的は、顧客の潜在的なニーズを引き出すことです。商談の際のヒアリングによって、顧客の顕在化されたニーズを聞くことはできるでしょう。しかし顧客自身もまだ気づいていない潜在ニーズを聞き出すためにはSPIN法が効果的です。
顧客の温度感を高められる
SPIN法では、顧客のニーズを探るだけでなく、顧客の購入に対しての温度感を高めることができます。質問と回答を繰り返すことで、顧客が自らの潜在ニーズに気づくことがあります。こちらからのセールストークではなく、顧客自らが課題に気づき、商品が必要であると考えることで、購入に前向きな雰囲気で商談を進めることができるのです。
SPIN法を活用した商談の流れ
ここでは、SPIN法を活用した実際の商談の流れを見ていきましょう。基本的に質問は、S→P→I→Nのステップとなります。
Situation(状況質問)
まずは、顧客の立場や現状を知るための質問をします。
この状況質問では時間がかかりすぎないよう、事前調査を行っておくとスムーズに進めることができます。また、自社が勧める商材に関連した潜在ニーズを引き出すことも大切です。
Problem(問題質問)
ここでは、顧客の課題となる問題点を明らかにしていきます。
状況質問の回答を踏まえ、顧客自身に「そこに困っていた」と課題に気づいてもらうことが重要です。また、こちらから問題点を提起するのではなく、顧客自身の口から話してもらうことでセールス感がなくなります。
Implication(示唆質問)
次に、問題質問で明らかになった課題を解決することの重要性について、認識してもらいましょう。
課題を解決しないことで起こる問題を踏まえ、課題解決の必要性を感じてもらうことが大切です。またここでは、顧客と課題解決のための手だてを一緒に考えることで、信頼関係の構築にもつながるでしょう。
Need payoff(解決質問)
最後に、課題に対する解決策を提案していきます。
ここでは、「実際に課題を解決できたらどうなるのか」理想の状態をイメージしてもらうための質問をしていきましょう。さらに、実際に課題を解決する方法として、自社の商品やサービスが効果的であると営業に結びつけます。
SPIN営業を成功させるポイント
SPIN法を活用した商談を、成功に導くためのポイントについてご紹介します。
事前準備を怠らない
商談やヒアリングの際には、あらかじめ事前準備をしておくことが大切です。
顧客情報の概要などを調べ、こちら側に有利な会話を進めるための質問などを整理しておきましょう。また、このとき質問内容を忘れないためにも、ヒアリングシートを作成し活用することも効果的です。
一貫性のある質問をする
SPIN営業では、S・P・I・Nの順に沿って一貫性のある質問をすることが重要です。そのためにも事前にヒアリングシートを作成することが効果的です。ヒアリングシートは、顧客からヒアリングしたい内容を順番にチェックリスト形式で作成します。
シートを作っておくことで、聞き忘れを防ぎ、一貫性のある質問で商談を進めることができます。
課題に気づいてもらえる質問をする
SPIN営業では、顧客自ら課題に気づいてもらえるような質問をすることも重要です。商談中は前提として、営業側がセールストークをするのではなく、あくまで聞く側で、顧客の現状や課題を聞き出すことが求められます。
顧客自身が抱える課題に気づき、課題について話してもらうことができれば、その課題の解決策として自社の商品やサービスの提案を行うことができ、顧客に興味をもってもらうことができるでしょう。
アフターフォローを忘れない
商談後には当日中か、遅くても翌日までにお礼の連絡をしましょう。
商談内容の議事録や、資料も一緒に送ることで、あとから商談内容を振り返ることができます。迅速で丁寧な対応は、好印象を与えることができるため、信頼関係を深めるためにも忘れずに行いましょう。
商談の規模から考えるSPIN営業法
ここでは、大型商談と小型商談でのSPIN法の使い分けについて見ていきましょう。
大型商談(契約金額が年間数百万円~数億円)の場合
まずは大型商談からみていきましょう。
大型商談をする場合には、SPIN法の流れ通りS→P→I→Nのステップで質問することが効果的です。ポイントは、顧客が質問に回答していくと、頭の中が整理されて購入意向が高まる効果がありそうな点だと思っています。
小型商談(月額数千円~数万円)の場合
さて次に、小型商談の場合はどうでしょうか?
私は、基本的には顧客への質問プロセスは前述の大型商談と同じパターンで間違いはないと思っています。しかし、話の順番が異なってくるのではと考えています。なぜなら小型商談の場合、短時間の商談、あるいは少ない訪問回数でクロージングまでを要求されるからです。要するに、商談は効率的に!ということが求められるのです。
ですので、大型商談の質問の順番は、S→P→I→N でしたが、小型商談の場合は、S→N→I→P(発音の仕方はわかりませんが・・・)の順番でも良いだろうと考えています。
- 状況質問(S)
- ○○様の部署は主にどういった役割を担ってらっしゃるのですか?
- 解決質問(N)
- 当社で提供できる製品(サービス)では、こんな問題解決ができますが、ご興味ありますか?
- 示唆質問(I)
- 現在の状況で、このサービスを導入せずに、結果的に機会損失などで無駄が発生していた場合どうしますか?
- 問題質問(P)
- やっぱりこれって問題だと思いますよね?
このような流れでしょうか。ではなぜそうなるのでしょうか。
大型と小型の商談の大きな違いは、提供するサービスや解決できる範囲の大きさといえます。すなわち、小型の商談の場合には、解決できる領域はある程度限られており、最初からその限定的な解決範囲に興味をもっているかどうかによって、その後の商談に進むか進まないかの判断をつけることが必要です。
また、小型の商談では数を多く売ることで売上目標の達成を目指すパターンが多くあります。つまり、「受注コスト」と言ってしまうと味気ない感じもしてしまうのですが、その単価をある程度抑えていかないと事業や会社の成長はついてきませんし、営業が担当する企業が増えてくると、1社あたりに多くの時間を費やすことも難しいのだろうと思います。
さらに、この考え方にはもう一つのメリットがあります。小型の商談で扱うサービスは数を多く売るため、営業マンの人数も増えることになるでしょう。そうした場合、営業マンの提案スキルの標準化に悩みをもたれるケースが多くあります。しかし(聞き方は別にして)解決質問で、サービスへの興味の有無は、ある程度誰でも聞くことができるでしょう。そこを徹底していれば、その後の商談管理は比較的楽になると考えられます。
理想としては、顧客の潜在意識から問題意識を顕在化させ、そこに自社のサービスを活用して、理想の状況をイメージしてもらう、S→P→I→Nの流れで商談ができれば完璧ですが、小型商談の場合、時間的にも人員的にも、そこまでの余裕がないのが実情ではないかと思います。
SPIN法のスキルを身につけるコツ
ここまでSPIN法について解説してきましたが、始めたばかりですぐに上手く活用できるものではありません。そこで、ここではSPIN法を定着させるためのコツをご紹介します。
- 反復練習
- SPIN法のスキルを身につけるには、反復練習が効果的です。S・P・I・Nそれぞれのカテゴリーに分けた質問を用意し、繰り返すことで習得することができるでしょう。
カテゴリー別に分けることで、質問の内容は異なっても同じ思考の回答を求める質問にわかれているため比較的短期間で覚えやすいといえます。
- ロールプレイイング
- 次に、反復練習を重ねることで習得した質問のパターンを実践形式で活用します。ロールプレイイングは営業のトレーニング方法として一般的な手法であり、スキルアップが期待できます。
ここではまず、上司や同僚に顧客役になってもらい、自身は営業マン役として行います。事前に顧客ニーズの設定もしておきましょう。
実際の商談に近いスタイルで行い、SPIN法を用いた質問を投げかけていきましょう。またロープレ後は、フィードバックをもらえることも大きなメリットです。
この二つの練習法を繰り返し行い、自身の営業スキルとして身につけていきましょう。
さいごに
"聞く営業"は良い営業ですが、小型の商談やサービスが増えてきている今、"聞く営業"イコール"デキる営業"であるとはかぎりません。扱っている商材やサービスによっては、ある程度早めの段階で相手の興味度合いや商談の確度によってアプローチを変えるなど、営業の仕組み化をおこなうことも、考えてみてはいかがでしょうか。
解決質問より先に話しが進まなかった顧客には、定期的なメールマガジンなどで、各社の解決事例などを読んでもらうことで、その後に興味をもってもらうことも重要だと思います。
もちろん状況によっても異なるとは思いますが、小型商談を扱ったりスキルが標準化しない営業チームで、潜在顧客へのアプローチから課題提起・意識変革までを現場の営業が担当するのは、もしかしたら非効率なことなのかもしれないと考えてみましたが、みなさんはどのようにお考えでしょうか?