セールスプロモーションの未来見据え リアルとデジタルのサービスを融合

今年創立50年目を迎えた株式会社アテナ。「“届ける”ニーズに応える」をサービス・コンセプトに、企業のセールスプロモーションを長年支援してきた。創業以来、主に大企業を対象とするダイレクトメールの発送業務を中核事業としてきたが、近年は隣接異分野の事業も積極的に開拓している。株式会社アテナ 取締役 企画本部長 常務執行役員(CFO兼CSO)の青木斉氏(以下、青木氏)に、同社のデジタル分野への事業展開と、それに伴うドラスティックな営業改革について語っていただいた。
同社が導入したマーケティングオートメーションツールは、多様なプロダクトを扱う営業現場でどのように活用されているのだろうか。
お客様プロフィール

取締役 企画本部長 常務執行役員(CFO兼CSO)
青木 斉氏
設立 | 1968年5月 |
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従業員数 | 177名(2015年3月) |
事業内容 |
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創業50年の企業がMAとSFAを導入
- 富田
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まず御社のビジネスの概要や、サービスの特徴などについてご説明ください。
- 青木氏
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弊社はDM発送を祖業としており、社名はダイレクトメール(DM)の「宛名」に由来します。一時は年間2億通を超えるDMを発送し、日本の郵便物の1%を占めていました。また、DMだけではなく、東京・名古屋・大阪の3か所に物流センターをつくり、モノを送る事業も拡大しています。さらに、コールセンターやWebなどを通じてお客様と直接やり取りするコンタクトサービスなども展開しています。
- 富田
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近年はデジタル技術を活用した分野にも積極的に進出されていますね。
- 青木氏
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はい。たとえば大学入試センター試験の模試では、採点から成績表の印刷、発送までをワンストップで提供するサービスを展開しています。模試実施日の夜に採点して、成績判定プログラムに沿って出した結果を、プリント・オンデマンドシステムによって個人別成績表として印刷・製本し、早ければ翌日に発送する。そのような、かつて不可能だったようなことが可能になり、新たなビジネスとして成長しています。
- 富田
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御社の優位性を活かした、他社にはなかなか真似できないサービスですね。そうしたビジネスを展開される中、昨年、マーケティングオートメーションツール(MA)と営業支援システム(SFA)の導入を発表されました。どのような背景があったのでしょうか?
- 青木氏
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弊社はBtoBの会社で一般の知名度はあまり高くないのですが、創業50年の歴史があり、大企業をはじめとする優良なお客様に恵まれてきました。既存のお客様からご紹介いただいたり、クチコミで伝わったりといった形で、たくさんの引き合いを頂戴できる環境にあったわけです。
ただそれは、言い方を変えれば既存のお客様の潜在ニーズの把握や新規開拓が不十分だったということでもあります。今までのような受け身の営業スタイルではこの先生き残れないと考えて、MAとSFAの導入を決めました。
- 富田
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それらのツールはいつごろから稼働し始めたのでしょうか?
- 青木氏
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2016年10月からプロジェクトが動き出しました。インプリメントについては、専門のコンサルティング会社に支援をお願いし、2016年12月にMA、2017年1月にSFAの導入がほぼ完了しました。
受け身の営業スタイルから積極的に提案チャンスを探す営業スタイルへ
- 富田
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MAやSFAの導入は、今後を見据えた営業とマーケティングの改革が目的だったというお話ですが、具体的にどんな目標を掲げていますか?
- 青木氏
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MAを使って情報を発信し、見込み客や案件機会を自ら創出するマーケティングスタイルへの変革を目指しています。同時に、SFAで顧客情報・商談情報をデータベース化して一元管理し、効率的で立体的な営業を実現するのが目標です。
- 富田
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「インターネットやデジタルの技術を活用して新しい法人営業のスタイルを創造する」というのが弊社のミッションであり、本企画のテーマでもあるのですが、御社がそうした目標をクラウドツールで実現しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?
- 青木氏
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実は2012年11月に弊社のWebサイトを全面的にリニューアルしたところ、Webサイト経由で毎日2~3件のお問い合わせをいただくようになったのです。潜在的な顧客層がいることがわかり、インターネットを活用して営業のシステムや意識を、これまでの受け身の営業スタイルから、積極的に提案チャンスを探すスタイルへ変えなくてはいけない、まだまだやるべきことがたくさんあると感じました。
- 富田
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Webサイト経由でのお問い合わせにはどんな特徴がありますか?
- 青木氏
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顧客育成(ナーチャリング)の進んでいる"ホット"な見込み客(リード)が多く、受注率が約2割とかなり高いのが特徴です。ただ、待ちのWebサイトだけではそれ以上伸びないので、MAを導入しようと考えたわけです。弊社の社長は、昨年の導入を機に「マーケティングカンパニー宣言」を打ち出しました。単に手紙やモノをたくさん発送すること自体が弊社の本来の目的ではない。
今後は、いかにお客様にリーチして、様々な形でマーケティングのお手伝いをするかがわれわれのミッションになると考えています。
- 富田
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Webサイト経由以外にどんなお問い合わせがありますか?
- 青木氏
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従来型のお客様のクチコミや、弊社の実績を見て、という有難いお問い合わせも結構あります。 また、私の出身の金融関係の人脈から紹介を受けることもあります。特に金融機関の場合、セキュリティやコンプライアンス等のハードルが高いので、新規開拓がなかなか難しいのですが、一旦お客様を獲得できると、それが導入事例となって次につながります。本格化させるのはこれからですが、特定の業界にターゲットを絞ってダイレクトメールを送り、それにWebのコンテンツをかけ合わせるなどして集客できるようにしていきます。
このようなリアルとデジタルを掛け合わせたハイブリッドなマーケティングサービスを自社で推進するとともに、私たちのお客様にも積極的に提案していきたいと考えています。
SFAでクロスセルを図る営業と現場の役割明確化
- 富田
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SFAを使ってどんなことに取り組んでいますか?
- 青木氏
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弊社には大企業のお客様が多いので、実はひとつのお取引先でも、トップ同士、役員同士、現場の担当者同士という形で、いろいろなつながりやご縁があります。ところが今までは、そうした情報が社内で共有されず、可視化されていませんでした。SFAを用いて "点"の情報を社員間で共有し、個々の点を"面"としてとらえられれば、より立体的な取引構造になります。異動や退職などでお互いにメンバーが変わっても、関係を維持できるようになるわけです。そういう時間軸も含めた"4次元的"なお客様とのリレーションを構築するのがSFA導入の狙いです。
そのうえで、MAでファインディング・ナーチャリング・クォリファイイングしたリードをSFAへ引き継いで、営業部門がフィールドセールスを行うという流れを造っていきます。
- 富田
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なるほど。以前は名刺情報をどのように管理されていたのですか?
- 青木氏
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名刺情報自体は、50年の歴史の中で社内システムに相当貯まっていましたが、これまではお客様に年賀状を送るときに使うぐらいで、営業には活用できていませんでした。営業日報は書かせていたものの、お客様や商談の管理は担当者任せで、担当の交代の際に十分な引き継ぎが行われず、結局情報が分散して埋もれていってしまう状態でした。
- 富田
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そういう属人的な情報管理から脱却するためにSFAを導入して、データを登録するルールを統一して情報のバラつきをなくし、データベース化しようと考えたわけですね。
- 青木氏
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はい。それと同時に組織改革も進めています。先ほど申し上げた通り、これまでは、営業担当者個人がお客様や商談の情報を管理して、直接やり取りしていました。本来なら事業部門が行うDM発送準備などの現場のオペレーション、弊社では"現業"と呼んでいますが、そういう仕事まで営業担当者がこなすケースも少なくありませんでした。
しかし今後は、お客様や商談の情報をSFAで共有して、営業と現業の役割や責任を明確に分担しなければなりません。
- 富田
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任せられることは現業に任せて営業の仕事を減らし、それによって浮いた時間を新規開拓に使いなさい、ということですね。
- 青木氏
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そうです。SFAにお客様や商談の情報を登録させて、営業には本来の仕事に専念させるということです。
たとえば、弊社の営業はプロダクトごとの縦割りではないので、ひとりの営業に対して複数のお客様からさまざまなオーダーがあります。もちろん弊社としては、そういうお客様にどんどんクロスセルしていきたい。メーリングサービスをご利用いただいているお客様に対して、ロジスティクスサービスやコンタクトサービスもお勧めするとか、実はいろいろな切り口があり得るわけです。そのような、これまでは埋もれて見えていなかった潜在ニーズをSFAで共有すれば、営業と現業が連携して新たな売上につなげられるはずです。
- 富田
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今後、営業担当者は、行動履歴をすべてSFAに入力しなければならなくなるわけで、定着させるのはなかなか難しいと思います。
- 青木氏
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SFAとMAはかなり高度なツールですから、全社員に一気に浸透させるのは難しい。何名か選抜したメンバーに勉強させて徐々に利用を広げています。
- 富田
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われわれはSalesforceのユーザーですが、10年ほど前に導入して、意外とすぐに立ち上がりました。その際に感じたのは、やはり強い意思を持ってトップダウンで進めるのが大切だということです。ただ、営業の現場の協力をどうやって得るか、という点ではやはり苦労しました。
人事、給与制度を改革し実績とプロセス双方を評価
- 富田
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実は弊社のお客様からも、「営業が担ってきた仕事の一部を現業に任せて、新規開拓などの業務に専念させたいが、なかなかできない」というお話をよくうかがいます。新規開拓という業務は、自らを律して動かなければならない、難易度の高い大変な仕事です。だから、これまでやってきたオペレーショナルな仕事を取り上げないでくれ、と営業は組織をあげて守ろうとする。加えてそれまでの仕事の経験や組織のナレッジ自体を否定するような話ですから、気持ちはわかります。御社でも現場の反対はありましたか。
- 青木氏
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確かにありました。ですが、経営会議をはじめ、いろいろな場で議論を重ねて、最終的にはそのほうが合理的だということで理解を得られました。まだ日が浅いので多少引きずってはいますが、社内の意識は相当変わりましたね。
- 富田
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結果的に、営業担当者の数を減らすことになったのですか?
- 青木氏
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まだまだ新規開拓に力を入れるので、減らすことは考えていません。むしろ、営業向きの人材は採用してでも増やしたいと考えています。一方で、2017年4月からは人事制度と給与制度を変更しようと思っています。今までは年齢や社歴に応じた年功序列型の給与体系や等級でしたが、それを大幅に変えて、担っている役割や実績に応じて待遇を決めます。特に営業については予算目標を持っていますから、半年ごとに実績を見ると同時に、その達成に至ったプロセスも評価の対象として、賞与も今まで以上にメリハリをつけていこうと考えています。
つまり、SFAに行動履歴をちゃんと入力しなければ、実績があがっても評価しない。そういう信賞必罰の人事給与制度を徹底させる予定です。
- 富田
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行動履歴を評価の対象とすることで、SFAへの入力を促す狙いもあるわけですね。
- 青木氏
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はい。これまでは行動履歴を集計すること自体が大変な作業でしたが、SFAなら半ば自動的に集計できますから。
- 富田
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まさに営業改革ですね。ただ、いくらマネジメントが「SFAに入力しろ」と言い続けても、フォローがないと、「ああ言ってはいるけど、実は上司自身がやる気ないよね」ということになりかねません。しっかりとしたサポートが必要になりそうですが......。
- 青木氏
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おっしゃる通り、日々社員をしっかりケアしなければなりません。まだ入口の段階なので、まずは操作方法の習熟を図るため、紙ベースのマニュアルや、動画によるマニュアルを作っています。兼務ですがSEもいますので、彼らにヘルプデスクの役割を担わせます。
次の50年に向けて守りの営業も強化
- 富田
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見込み客の獲得や営業のマネジメント、その他全般の組織運営も含めて、何か工夫されていることはありますか。
- 青木氏
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組織的な営業を可能とする研修システムを構築したいと考えています。幸いなことに、当社はクライアントに恵まれているので、精力的な営業マンほど"攻め"一辺倒になりがちです。しかし、与信管理など"守り"の部分を強化する必要もあるので、与信管理のガイドラインを作成して学習させています。もちろん"攻め"も強化するために、営業部長などが現場に入り込んで、ターゲット先へのアプローチ方法などを伝えるコーチングも、SFAと絡めて進めたいですね。
例えば、マイナンバーを管理するニーズのある、比較的規模の大きな会社をターゲットとして営業をしています。実際、健保組合の業界にDMを送ったところ、反響が大きく、短期間に6~7件の取引が成立しました。
- 富田
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そのあたりは御社のプロダクトに強みがありますし、MAツールをマーケティングと営業改革に上手に活用されると、まさに鬼に金棒という感じがします。
- 青木氏
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それもこれから次第です。なんとか50年間成長してきましたが、やはりその次のステージを見据えたチャレンジが必要だと思っています。
- 富田
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弊社には歴史がないものですから、新規開拓をはじめとする営業・マーケティングをどう効率化するか、という自社の取り組みをもとに、ノウハウをお客様に提供することがビジネスになっています。その意味では、御社の現在の取り組みと弊社の位置づけは似ていますね。
- 青木氏
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この分野では御社はずっと先輩ですから、ぜひご指導いただきたいです。
- 富田
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いえいえ、先輩などととんでもない。何か一緒にお仕事できたらと思っています。
編集後記
DM業界では老舗のアテナ様。トップの決断でデジタル化を決められ、まずは社内の営業改革からスタートしました。歴史のある会社だからこそ、新しい仕組みを取り入れるのは難しい。やはり改革にはトップの強い熱意と現場を巻き込むことが重要だと改めて気付かされました。SFA,MAを導入して会社が次のステージにいかれることを期待したいと思っています。