飛躍的な成長を続ける企業が実践している 「効果的」で「シンプル」な仕組みとは?

株式会社ベーシック(東京都千代田区)は、「Webマーケティングで世の中の問題を解決する」という理念のもと、Webマーケティングポータル「ferret」やマーケティングオートメーションツール「ferret One」などを提供する企業だ。「ferret」をツールからメディアへ完全移行してから2年で月間250万PVへと育て上げ、「ferret One」の導入実績を着実に積み重ねている同社。いわば“企業の問題解決のプロ”である同社は、自社内の営業・マーケティングに関する課題に対してどのように取り組んでいるのだろうか? 同社代表取締役の秋山勝氏とWebマーケティング事業部マネージャーの持田雄一氏に話を伺った。
お客様プロフィール

代表取締役
秋山勝氏
Webマーケティング事業部マネージャー
持田雄一氏
設立 | 2004年 |
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従業員数 | 105名(2016年9月時点) |
資本金 | 3億1,060万円 (2016年9月時点) |
事業内容 |
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「問題解決」をキーワードに事業を展開
課題は営業組織の"足腰の弱さ"
- 富田
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まずは御社のビジネスやビジョンについて教えてください。
- 秋山氏
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弊社は、Webマーケティング事業と比較メディア事業、EC事業という3つのビジネスを展開しています。それらに共通するキーワードは「問題解決」です。企業にはさまざまな問題が存在します。非効率なこと、属人化していること、体系化されていないこと。企業が抱えるそうした問題を解決して"マイナスを埋める"のが、弊社事業の基本的な理念です。
- 富田
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中でもWebマーケティング事業に関しては、2007年にポータルサイト「ferret」を開設、会員数が32万人に達し、8月には、Webマーケティングツール「Homeup!」のサービス名を「ferret One」に変更されました。
- 秋山氏
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もともと「ferret」は、Webマーケティングの効果的な運用に必要なツールやトレーニング、サポートをパッケージ化したソリューション「ferret One」を販売するためのオウンドメディアとして立ち上げました。なんらかの課題を抱えて「ferret」を訪れたお客様に対し、ひとつの解として「ferret One」を提供する。両者はそういう関係になっています。
- 富田
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そのほかにも、比較メディアの運営やスマートフォンケースの販売などのビジネスをされてますが、今回はWebマーケティング事業を中心にお話を伺いたいと思います。今まで営業面でどのような課題を抱えていらっしゃいましたか?
- 秋山氏
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基本的に弊社は、こちらからのアウトバウンド営業をしたことがありません。「ferret」などを通じてお客様に弊社サービスやプロダクトに触れていただき、ある程度見込み度合いが高まった状態でお問い合わせいただくところから営業活動が始まります。
- 富田
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つまり、いわゆるコールドコールによる新規開拓はされていないのですね。
- 秋山氏
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はい。しかし逆の面でみると、営業組織が育ちにくく、足腰が弱くなってしまうという課題がありました。
- 富田
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どういう場面でそうした課題を感じていらっしゃいましたか?
- 秋山氏
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たとえば、当社とお取引のない新規のお客様への対応です。普段、弊社サービスをご理解いただいている前提で営業がスタートするので、新たな顧客に対する臨機応変な対応が鍛えられていないのです。
営業担当者全員が新人
"誰でも結果を出せる仕組み"を実現
- 富田
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ただ、それは御社が、効率的な営業や仕組み化を志向されていたからではありませんか?
- 秋山氏
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おっしゃる通りです。営業というのは、個人の能力やスキルに頼っていると、再現性に乏しく、いつまでも組織として成長できない。ですから、「ferret One」の立ち上げの際、社内の知識やノウハウを標準化して、誰でも一定の結果を出せる仕組みを整えることが重要だと考えました。
- 富田
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なるほど。では、その仕組みについてお教えください。「ferret One」の営業部隊は何名ですか?
- 秋山氏
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全部で9名、うち4名が電話によるインサイドセールス、5名がフィールドセールスです。
- 富田
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それに対して、月間のリード数は?
- 秋山氏
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ホワイトペーパー(お役立ち資料)のダウンロードを中心に月間2500件ぐらい。1日約100件のリードを担当者へ自動的に、均等に割り振っています。
- 富田
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「自動的に」というと、大口のお客様からのお問い合わせだから新人は避けよう、といったこともしないのですか?
- 秋山氏
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しません。というより、そもそも9名全員が、「ferret One」の立ち上げの際に新たに採用した営業の初心者ばかりでした。
- 富田
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ほかの部署からの異動ですらなく、全員新人ですか? すごいですね。
- 秋山氏
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これはこの事業を始めるにあたっての挑戦であり、実験でもありました。ただ、持田を中心に、社内のノウハウをすべて定量化してスクリプトに落とし込めば必ずできる、という自信はありました。
- 富田
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具体的には、どの様なスクリプトで進めるのですか?
- 持田氏
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お客様の大半は、「ferret」をご存じで、かつ何らかの悩みを抱えて資料をダウンロードした方です。よって、課題についてのお客様の反応をあらかじめいくつかのパターンに分類し、対応できるようにしておくのです。電話で営業やマーケティング上のちょっとしたポイントを突きながら興味を喚起し、「よろしければコンサルタントに相談しませんか?」と案内します。
- 富田
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そうしてフィールドセールスの担当者へつなげるわけですね。月間約2500件のリードの何割ぐらいがそのステップへ進むのですか?
- 持田氏
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約250件、10%です。その段階で、御社のオンライン商談システム「ベルフェイス」が登場します。
- 富田
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つまり、訪問せずにオンラインで商談を進める、と。
- 持田氏
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はい、どんなに近くても基本的に訪問はしません。
- 富田
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オンラインの商談だけで受注できますか? それともその後、訪問するケースが多いのですか?
- 持田氏
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「ベルフェイス」での初回の商談で即決できることもあれば、2~3回要することもありますが、訪問が必要になることはまずありません。それでも10%は受注に至っています。
- 富田
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それはかなり効率的ですね。当然、その場で決まらずにナーチャリング(見込み顧客運用)が必要なケースもあると思いますが、そこからはまた別の担当の方が引き継ぐのですか?
- 持田氏
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はい、「ferret One」のマーケティングチームが担当します。
- 富田
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その際、たとえば「2か月後に電話する」といいながら忘れてしまったり、つかまらなかったり、といった問題が起こりがちですが、その点でなにか工夫は?
- 持田氏
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Salesforceですべてのリードを管理して案件の進捗を追い、アラートを出すようにしています。
- 富田
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なるほど。わずか5か月間でそこまでの仕組みを作られたのはすごいですね。
- 秋山氏
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そのように標準化しないと、結局属人化してしまいますから。今日、ある人ができるようになったことを、明日、ほかの人にもできるように仕組み化して、どんどん仕事を回す。それが弊社の基本方針です。
「課題解決シート」の活用で1人当たりのコール数が10倍以上に
- 富田
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そのほかに、課題解決のためにどんなことに取り組んでいらっしゃいますか?
- 秋山氏
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全社員を対象に定期的に実施しているのが、「課題解決シート」の作成です。人間というのは「忘れる」生き物です。せっかく自分たちで課題を解決しても、いつしかそれを忘れて同じミスを繰り返してしまう。それに対して私は、「人間だから仕方ない、次は気をつけよう」ではなく、「人間とはそういうものだから、ミスをしない、もしくはミスをしても問題にならないようにするにはどうすればいいか」を考えたいのです。
課題解決というのは、「非効率だったものが効率化された」「混沌としていたものが秩序立てられた」というように類型化できます。そのような形で全社員が、自分たちの解決してきたことを記録して共有する。そうすれば、新たなプロジェクトを立ち上げるときなどにそれを見て、記憶に頼らずに大事なポイントを全体で確認したり、気づきが得られたりします。
また、そのように過去を振り返ることによって、以前にもこんな課題があって、これだけのことをしてきたんだ、と勇気づけられ、自信を持てるという側面もあります。
- 富田
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これがそのシートですね。課題解決の分類としては、その課題が前からなかったのか?「無」からあったのか?「有」、「不安定」から「安定」、「複雑」から「単純」......。なるほど、おもしろい分類の仕方ですね。
- 秋山氏
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これは結構効果があっておすすめの方法です。
- 富田
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中でも特に成果のあったエピソードは?
- 秋山氏
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KPIをひとつに絞ったことです。受注を増やすには、テレアポのコールの質と量を向上させる必要があります。ところが、質を高めようとすれば、当然ながら量は減ってしまいます。
- 富田
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確かに、両方を追求するのは難しい。同時に複数のことをしようとすると営業も混乱してしまいます。
- 秋山氏
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そうなると成果につながりませんし、結果社員も育ちません。そうならない状況を作ることが、マネジメントの役割だと思うのです。 質と量のどちらかといえば、今回は圧倒的に量が重要と判断をしました。それは「課題解決シート」によって明らかになっている。そこで、コールの質についてはひとまずおいて、とにかく量を追い求めることにしました。
- 富田
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その結果どうなりましたか?
- 秋山氏
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以前は1日20件だった1人当たりのコール数が、2か月後には1日300件にまで急増しました。机の前に座ってやること自体は一緒なのに、それだけの差が出たわけです。
- 富田
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それはすごい!KPIをひとつに絞る!大変勉強になるお話です。
営業改革に不可欠なのは
トップの強い意志と明確なビジョン
- 富田
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弊社は、インターネットで法人営業を効率化できると考えて情報を発信しています。このインタビューもその一環ですが、御社もインターネットによる効率化は可能だとお考えですよね。
- 秋山氏
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まさにそれが可能であることを証明するのが弊社の役割だと考えています。ただ、その実現のためには、決裁者が意思決定し、積極的に投資することが不可欠だと思います。
- 富田
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おっしゃる通りですね。ところが、実際には多くの企業が、そうした投資をコストと考え、ネガティブにとらえています。
弊社のお客様は、いわゆるソフトベンダーがかなりの割合を占めていて、そのうちの約3割がクラウドサービスに移行しています。しかし、クラウドのビジネスはすぐに利益が出にくいため、ほとんどのお客様がまだ採算ラインに乗らず、予算都合で撤退するケースも非常に多い。御社はどんな目標や撤退ラインを設定していらっしゃいますか? - 秋山氏
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「ferret One」に関しては撤退基準を設けていません。やりきればなんとかなる、という覚悟で臨まなければ立ち上がらないと思うからです。
- 富田
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確かに、そういう勇気とやる気をもって一歩踏み出すことこそが大切であって、現に成長しているのはそれを実践した企業だけかもしれません。
- 秋山氏
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本当にそうですね。たとえば、弊社で大いに活用している「ベルフェイス」にしても、たいていの企業の現場の人に必要かどうかを聞けば、「そんなものがなくても十分にやれています」と答えるでしょう。
- 富田
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電話でお断りされるときの決まり文句ですね。
- 秋山氏
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ですから結局、トップダウン、もしくはトップから権限委譲された現場のリーダーによる決断以外、改革を進めるすべはない。実は先日、弊社内でも、「ferret One」を使うべき場面なのに、今まで利用してきて慣れているツールを使おうとしていたので、それではダメだといいました。実際に使ってダメな部分をどんどん出していかなければ、ツールとして育たないし、組織としても成長しない、と。
- 富田
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弊社も同じで、自社製品であるにもかかわらず、最初は「ベルフェイス」を使うことにネガティブでした。
- 秋山氏
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やはりそこは、トップが現場に対してただ「使え」というだけでなく、これを使ってこんなことを実現するのだ、という説得力のあるビジョンを提示することが大切だと思います。要するにもっとも重要なのは、トップ自らが、インターネットを活用すれば法人営業を必ず改革できると信じられるかどうか。それに尽きるのではないでしょうか。
編集後記
webマーケティングでは当社と近いベーシック様。成長を支えているのは、仕事をシンプルにすること仕組み化すること。特に人はそもそも「忘れる」生き物。だから仕組みにして誰にでも出来るようにする。単純なKPIでしっかりとPDCAサイクルを回す。 経営/マネジメントの観点からもとても参考になりました。ありがとうございました。