業界を牽引するクラウドベンダーCIOが語る「Web広告に頼らない"継続的な成長の仕組み"」とは?

ナレッジスイート株式会社(東京都港区)は、営業支援・顧客管理システムやグループウェアを統合した純国産のクラウド型アプリケーション「Knowledge Suite」などのITソリューションを開発、提供する企業だ。クラウドの特性を活かした同社の製品群は、低コストで迅速な業務改善を実現するものとして多くの企業で利用され、売上高は毎年約20%の成長を続けている。2008年のクラウド黎明期からこのビジネスを手がけてきた同社は、営業・マーケティングにおいてどんな課題に直面し、いかに克服してきたのだろうか? 取締役CIO兼CRMビジネスユニットマーケティング部部長の柳沢貴志氏に話を伺った。
お客様プロフィール

取締役CIO 兼CRMビジネスユニットマーケティング部部長
柳沢貴志氏
設立 | 2006年 |
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従業員数 | 50名 |
資本金 | 3億7682万円 |
事業内容 | クラウド型統合ビジネスアプリケーション「Knowledge Suite」、GPSを利用した営業支援・顧客管理システム「GEOCRM.com」等の開発、提供 |
クラウドの認知度向上が課題。積極的なPRで問い合わせ急増
- 富田
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まずは御社のビジネスについてご解説ください。
- 柳沢氏
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弊社は、クラウドという言葉が一般的でなかった2008年からSaaS型クラウドグループウェア「GRIDY」の提供を開始して8年目になります。現在の主力製品は、2014年から社名にもなったSaaS型営業支援・顧客管理アプリケーション「Knowledge Suite」で、「GRIDY」はその機能のひとつという位置づけです。
ご利用いただいているお客様の数は現時点累計で約4500社。その約50%がパートナー経由で、中でも弊社の主要株主であるKDDI株式会社経由のお客様が多いのが特徴です。
- 富田
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弊社でも、他社製品と比べて投資対効果が圧倒的に高かったので、2010年から御社製品を利用してきました。では、今まで営業やマーケティングにおいてどんな課題を抱えていらっしゃいましたか?
- 柳沢氏
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創業当初は、社名や製品の認知度はもちろん、クラウドという言葉自体も世の中に浸透していない状況でしたので、まずはクラウドサービスをいかにお客様にご理解いただくかが課題でした。当時、企業には、ビジネスの大切なデータを預けることに対して非常に大きな抵抗感がありました。そこで弊社は、内部体制はもちろん、第三者機関の監査を受けたり、クラウドの技術面はもちろん、堅牢性や安定性といった安全・安心面をお客様にお伝えすることを心掛けたわけです。
- 富田
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御社は当時からクラウドに関する情報発信に積極的に取り組んでいらっしゃいました。
- 柳沢氏
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各メディアで取り上げていただけるようかなり精力的にPR活動を行なっていました。その結果、月間のお問い合わせの数が増え、現在は300社ぐらいで安定しています。
- 富田
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認知度を高めるための活動には、広告とは別のノウハウが必要になると思いますが、もともとPRは御社の得意な領域ですよね。
- 柳沢氏
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私自身が広告業界出身ということもあって、予算を投じればある程度できることはわかっていました。認知度を高めるのが目的であれば、Webは当然ですが、それ以外で信頼できるのは新聞ですね。
- 富田
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IT製品のPRで新聞を使うというのは、成果が見えにくく企業としてはなかなか踏み込みにくいところです。KPIなど特定の指標をお持ちだったのでしょうか?
- 柳沢氏
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いえ、ご指摘の通り、コンバージョンのような定量的な指標設定は難しいので、新聞への掲載自体がお客様の安心につながり、認知が広まればいいと考えていました。
- 富田
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なるほど。そして実際にその目標を達成されたわけですね。
ストックビジネスの恩恵をパートナーと分かち合う
- 富田
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PRに予算をかけてお問い合わせが急増した頃、そのお問い合わせに対して営業の方が直接対応されていたのですか?
- 柳沢氏
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はい、全国のお客様を訪問していました。もちろん、製品の月額利用料が数千円という安価なサービスからだったので採算は取れませんが、最初はコスト度外視で導入実績を増やすことを考えました。
- 富田
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お客様を訪問することにこだわった理由は?
- 柳沢氏
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SFA/グループウェアという製品の特性上、Web上で購入に至るケースはほとんどなく、1回でもお客様と対面してニーズを見極め、最後のひと押しをすることが大切だからです。ただしこの手法では、導入数を加速させるために営業の人員増加が必要になってきます。売上が拡大しても、それに比例してコストも高くなり非効率的だと感じるようになりました。
- 富田
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そこからどんなきっかけで潮目が変わったのでしょうか
- 柳沢氏
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パートナーから最初に引き合いをいただいたときです。実績を積み重ね、徐々に知名度が上がったからこそお話があったわけですが、それを機に、パートナーセールスを拡大していく方針に転換しました。
- 富田
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いいタイミングでいいパートナーと巡り会えたわけですね。現在、御社には何名の営業担当者がいらっしゃるのですか?
- 柳沢氏
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新卒を含めて20名です。当初はそこまで増員するつもりはなかったのですが、導入実績が増え、パートナーセールスの比率も高まってきたからです。ただ、今度はそのパートナーセールスに関する課題が出てきました。クラウドのビジネスは、いわゆる売り切りのビジネスではなくストック型なので、パートナーにとってメリットを感じられる部分が少ない。現場には、「売っても仕方ないじゃないか」という気分が広がっていきました。パートナーに対してもっと売って欲しいと働きかけにくくなっていったのです。
- 富田
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そこがクラウドビジネスの難しいところですよね。
- 柳沢氏
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そこで弊社は、ストック型の恩恵を味わっていただくために、一緒に獲得したお客様については、パートナーにも永続的に一定の取り分が発生する仕組みに変えました。
- 富田
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クラウドは、パートナーにすぐに利益が出にくく、結果として直販に頼らざるを得ない企業が多い中、非常に興味深い試みですね。
リード獲得後の"営業の初動"の重要性
- 富田
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マーケティングについて伺います。Web戦略にはどの程度力を入れていらっしゃいますか?
- 柳沢氏
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今はそれほど予算をかけていないですね。リスティング広告はここ半年ほど一切やっていません。もともと自然流入が多いですし、「グループウェア」「SFA」「CRM」といった検索ワードの単価が競争の激化でどんどん上がっていますから。現状、Web広告については御社のITトレンド頼みですが、それでもなぜかお問い合わせが結構来ています(笑)。
- 富田
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それはITトレンドの力というより御社の実力ですね。それ以外のメディアについてはいかがですか?
- 柳沢氏
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キーマンズネットやTechTargetなど、IT系のメディアにはスポットで記事広告やホワイトペーパー広告を出稿しています。
- 富田
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一方で御社は、展示会に力を入れていらっしゃいますよね。
- 柳沢氏
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今年は特にそうですね。小さなスペースでもいいので毎月出展して、名刺の獲得に注力しています。
- 富田
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弊社も以前は体育会系さながらに展示会で何枚の名刺を集められるかにチャレンジしていました(笑)。
- 柳沢氏
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弊社では展示会後の名刺フォローに課題があります。確度の高いお客様に対しては優先的に営業をしますが、そういうお客様には各社が集中するので、初動のスピードと質が重要になります。しかし、弊社には多くの営業担当がいるわけではないので対応が難しい。しかも、場合によってはお客様をパートナーにお願いすることもあり、スムーズな連携も必要になります。
- 富田
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確かに、展示会に出展すると見込み客が増えていきますので、獲得したあとのお客様のフォローがどの企業にとっても大きな課題ですね。
- 柳沢氏
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先ほどお話ししたように、弊社はインバウンドの比率が高いので、自ら新規でお客様を開拓した経験のない人が多い。基本的に"待ちの営業"に慣れてしまっているわけです。そうすると、潜在層のお客様に対してしっかりとアプローチできず、機会損失が出ている可能性がある。潜在層への営業を効率化するには、マーケティングオートメーションなどによるナーチャリングが必要になると考え、現在そのプロジェクトに力を注いでいるところです。
- 富田
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なるほど。その成果がこれから出てくるということですね。
BtoB営業改革のカギは"人間と機械"の役割分担
- 富田
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次に弊社のサービスについてですが、2013年からご利用いただいているITトレンドについてご意見をいただけますか?
- 柳沢氏
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ITトレンドは、利用開始当時からいわゆる検索時代に合った数少ないメディアでしたが、今ではどんなキーワードでも表示される状態にまでなっていて、存在感と知名度がさらに高まっていると感じます。あるお客様へのインタビューで、「ITトレンドのランキングで1位だったことが『Knowledge Suite』の導入を決める要因になった」というお話を伺ったとき、出稿して本当によかったと思いましたね。
- 富田
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それは嬉しいお話です。続いて、今後の展開についてもお聞かせいただけますか?
- 柳沢氏
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これまでの資産を活かして案件数を増やすこと、これに尽きますね。その際、特にBtoBのビジネスでは、オンラインですべてを完結させるのは無理で、最終的にはお客様と対面でコミュニケーションをとって信頼を獲得することが何より重要になる。逆にいえば、それ以外のことは自動化できるはずですから、弊社もそうした両面で進化していかなければならないと考えています。
- 富田
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確かに、BtoCについては、すべてAIで完結する時代が来るかもしれませんが、BtoBのビジネスはもっと複雑です。額が大きく、決裁者も複数いるので、人がしっかり説明して信頼を獲得する、という部分は残ると私も思います。
そして、それ以外の部分についてはまだまだ効率化の余地がある、というのもおっしゃる通りで、それこそが御社や弊社の仕事の中心的なテーマです。機械にできることはどんどんやってもらって、人間はその人にしかできない仕事に集中する。そういう役割分担が完全に実現すれば、BtoB営業は劇的に変わるでしょうね。 - 柳沢氏
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私もそう思います。
- 富田
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最後に、マーケティングにおける成功の秘訣をお聞かせください。
- 柳沢氏
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「Knowledge Suite」のような中堅・中小企業向けの比較的安価な商材は、いかに多くのお客様に知っていただくかが重要です。直販だろうと間販だろうと、認知度の向上につながる環境を整えるのがマーケティングとして必要なことではないでしょうか。
- 富田
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なかなかできないことですが、御社はそこに投資して多数のお客様に知っていただけたからこそ、お問い合わせを増やし、売上を伸ばすことができたわけですからね。貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
編集後記
安価なクラウドサービスをどう効率的に販売していくのか? 各社が抱える課題に対し、実直に長期にわたり取り組んでこられました。創業当初から認知度向上に積極的に取り組み、パートナー(代理店)戦略を中心にWebマーケティング、展示会なども加え売上を伸ばしています。多くのクラウドベンダーが課題として抱える代理店構築の参考になればと思います。