クラウドサービスの提供に留まらないビジネスモデルを構築。リアルとWebの"ハイブリッド型マーケティング"で売上前年比200%が視野に!

株式会社あしたのチーム(東京都中央区)は、従業員100名以下の中小企業を主なターゲットとして、人事評価制度の構築やクラウドツール「コンピリーダー」を利用した運用支援など、人事に関するあらゆるサービスをワンストップで提供する企業だ。2008年の設立から7年あまりで、導入実績700社以上、全国10か所の拠点を構える企業へと成長を遂げた同社。営業やマーケティングにおいてどんな課題を抱え、その改革にいかに取り組んできたのか? 代表取締役社長の高橋恭介氏に話を伺った。
お客様プロフィール

代表取締役社長
高橋恭介
設立 | 2008年 |
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従業員数 | 90名(2016年4月時点) |
資本金 | 3億6810万円 (2016年4月時点) |
事業内容 |
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課題は「ニッチな商材で市場にいかに食い込むか」
地道なテレアポ&トップ営業からスタートするも......
- 富田
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はじめに、御社のサービスについてご解説ください。
- 高橋氏
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今、日本の企業では働き方改革、特に労働生産性の向上が大きなテーマになっていますが、弊社は、中小企業に人事評価制度を導入することによって、それを実現したいと考えています。弊社のサービスの最大の特長は、従業員100名以下の中小企業、中でも従来なかなか入り込めなかった10名未満の企業に対しても、単に評価制度の構築をコンサルティングするだけでなく、クラウドを利用して運用を支援するサービスを展開している点です。
- 富田
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現在、どのようなプロセスでお客様にサービスをご提供されていますか?
- 高橋氏
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人事評価制度がない、もしくは制度が形骸化しているような企業に対して、従業員への説明会や研修などを実施して3ヶ月で制度を構築します。そして、運用支援に12か月、計15か月間で制度を定着させ、その後は業務を内製化していただく。そして最終的に、人事評価クラウド「コンピリーダー」を提供するというプロセスです。お客様は従業員30名未満の企業が7割を占めていますが、47都道府県の中小企業約51万社すべてがターゲットになると認識しています。
- 富田
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予算の限られている中小企業がターゲットとなると、少額の商談をたくさんこなさなければならないイメージがありますが......。
- 高橋氏
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制度構築と運用支援の合計で約400万円の商談ですから、決して小さくはありません。ただ、競合サービスはどれも制度構築だけで1000万円程度が相場ですので、トータルでこの金額は格安だと考えています。15か月で割れば1か月30万円弱、新卒を1名雇うより安いわけです。
- 富田
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人事評価という専門性の高い制度を1年あまりで導入できて、業務を内製化できると考えれば、確かにお買い得ですね。 では、そうしたビジネスを展開される中、営業やマーケティングに関してどんな課題を抱えていらっしゃいましたか?
- 高橋氏
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全国の中小企業というマスマーケットに対し、人事評価制度の構築・支援サービスというニッチな商材を使っていかに食い込んで行くかが創業当初の大きな課題でした。
- 富田
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創業時はどんな方法でリードや商談を獲得していらっしゃったのですか?
- 高橋氏
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創業から3期目までは、外部から中小企業のリストを購入して1件1件電話をかけたり、さまざまな交流会に参加して経営者に会ったりしていました。当時は正社員20名でマーケティング部門もなかったので、リードの獲得からセミナーまで、すべて私ひとりでやっていました。私はBtoBマーケティングに関しては素人だったので、かなり右往左往しましたね。
「47都道府県進出戦略」で
リアルとWebの"ハイブリッド型マーケティング"を実現
- 富田
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それでは4期目以降、どんなマーケティング改革に取り組まれたかについてお聞かせください。
- 高橋氏
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まずはリスティング広告への出稿です。この施策はどちらかというと、CPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)を意識して売上を伸ばすことより、商材の有効な見せ方を探ることのほうに主眼を置いていました。月間10万~20万円の投資でコンバージョンは1~2件程度でいいから、商品の打ち出し方を明確にしてWebサイトを構築し、ビジネスの基盤を整えようと考えたのです。 その象徴といえる取り組みが検索キーワードとして「人事"考課"」と「人事"評価"」、どちらの言葉を使うべきかを1年かけてテストマーケティングしたことです。実は、検索のボリューム自体は"考課"のほうが2.5倍ほど大きいのですが、マーケティングの結果、これからは"評価"を使う、と意思決定しました。
- 富田
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"考課"のほうが検索数は多いのにあえて使わない、と。
- 高橋氏
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そうです。というのも、"考課"という言葉を使っているのはほぼ大手企業だけで、企業規模が小さくなるほど"評価"という言葉を使う傾向のあることがわかったからです。弊社のターゲットは中小企業で、単価は安くても"評価"のほうがセグメントとして合っていると判断しました。
- 富田
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リスティング広告に実験的に投資して、CPA (Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)は高くついたものの、商材の見せ方を明確化できたことが非常に大きな成果だったわけですね。その後、CPAはどのように推移しましたか?
- 高橋氏
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全国に拠点を展開したことによってCPAは一気に下がりました。実はそれ以前にも、全国で広告を出稿していたのですが、地方からはお問い合わせすらほとんどなかったのです。ところが、拠点のあるエリアのお客様は次々にコンバージョン(注)する。つまり、地方のお客様は、弊社のような在京のクラウドサービス企業と取り引きする際、十分なサポートを受けられないのではないか、交通費を請求されるのではないか、といった不安を抱えていて、自分のエリアに拠点があるかどうかを非常に重視しているということです。やはりリアルとWebは連動するのだと改めて感じました。47都道府県に拠点を設置する戦略を立てたのはそのためです。
- 富田
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なるほど。一般にクラウドサービスの企業というと、拠点を多く構えるとコストがかかるので、地方は出張で対応するというところがほとんどです。本社集中でサポートできるのがクラウドの利点であり、だからこそ利益を出せるという。ですが確かに、地方のお客様からすれば不安はありますよね。
- 高橋氏
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私はクラウドサービスの企業こそ、単にツールを提供するのではなく、直販部隊を設置してカスタマーサポートに力を入れ、労働集約型のビジネスモデルを構築すべきだと考えています。ツールだけに依存していると、デバイスなどが変わった瞬間にすべてをひっくり返されてしまうリスクがあるからです。特に弊社の場合、クラウドはあくまで業務を効率化して顧客の裾野を広げるためのツールであって、人事評価という面倒な業務をひとつひとつ請け負っていくことで初めて成立するビジネスですから、リアルな営業・サポート活動が不可欠なのです。その意味で弊社のマーケティングは、リアルとWebの"ハイブリッド型"だと思っています。
- 富田
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北海道から九州まで、多くの拠点を設置したのは、そういう理由があるのですね。実際、クラウドサービス提供企業には、代理店販売でサポートが薄く、導入後うまく使えていないケースもみられます。これは、非常に参考になるお話です。
マーケティング担当者の現場感覚を養う秘訣は
"あえて"営業ミッションを課すこと
- 富田
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現在のマーケティング部門の組織についてお教えください。
- 高橋氏
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正社員100名のうち、マーケティング担当者は6名です。役割分担としては、セミナーの資料作成や現場とのリレーション構築を担当するチームと、外部のWeb制作会社やリスティング会社との窓口になるチーム、それから新たに立ち上げた自社メディア「あしたのチーム総研」を運営するチームがあります。
- 富田
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6名のマーケティング担当とは、積極的に投資されているイメージですね。マーケティングの業務範囲などについて、何か工夫されていることは?
- 高橋氏
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営業担当者と同様、マーケティング担当者もお客様を抱え、実営業の数値責任を持っていることでしょうか。一般に弊社と同規模の会社では、マーケティングと現場の営業のコミュニケーションがうまくいかず、あつれきの生じるケースが多いと思います。それを回避するための最大の施策は、マーケティングがいち営業部隊としてお客様を抱え、自分たち自身でお客様に赴き、納品まで責任をもつこと。マーケティング担当者の数が比較的多いのはそのためで、その点こそが弊社のマーケティングの強みだと考えています。
- 富田
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マーケティング担当者に対して、あえて営業ミッションを課す。それによって現場を知り、営業としての感覚を養うということですね。
- 高橋氏
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そうです。弊社のような中小ベンチャーは特にそうですが、営業についてすべてわかっている人間だけでマーケティング部隊を作るのは難しく、どうしても現場とピントがずれたり、営業を批判したりしがちなので。
- 富田
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効率化のために営業とマーケティングの業務を分ける企業が多い中、非常に興味深い取り組みです。
- 高橋氏
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私は、むしろ両者を一緒にしたほうが、マーケティングの一人歩きというロスが少なくなるので効率的だと思っています。マーケティング担当者の仕事全体に占める営業としての割合は、だいたい30%ぐらいです。
- 富田
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妥当な数字かもしれませんね。それ以上になると営業と変わらなくなってしまいますから。とてもおもしろいアイデアだと思います。
Webマーケティングは
「リアルがあってこそレバレッジが効く」
- 富田
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新規リード(見込み顧客)の獲得手段としては、どのようなものがありますか?
- 高橋氏
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最も大きなチャネルは、全国約2000社の社労士法人や研修会社、代理店などからの紹介です。これは成功報酬型で、社長のアポイントを獲得できた場合にはインセンティブをお支払いしています。月間50~100件ぐらいですね。
- 富田
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社長アポ獲得の成功報酬とはユニークですね!
- 高橋氏
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社長アポに限定しているため、売上への貢献度はリスティング広告より大きいのです。リスティングの場合、商談が社長まで上がる間に3分の1ぐらいに減ってしまいますから。
- 富田
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そうですね。そのほかにはどんなリード獲得手段をお持ちですか?
- 高橋氏
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年間100回ほど開催している、商工会議所などとの共催セミナーです。案内のEメールを月間約2万件、ダイレクトメールを3000件ほど送っています。あとはHR EXPOなどの展示会への出展ですね。
- 富田
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なるほど。弊社のITトレンドやリストファインダーはいかがですか? 数は少ないと思いますが......。
- 高橋氏
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いえいえ、実は昨日と一昨日にもお問い合わせがありました。
- 富田
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それは嬉しいですね。弊社のサービスに何か課題があれば教えていただけますか?
- 高橋氏
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課題はなくて、むしろもっとお金を払いたいぐらいです(笑)。現状、御社のオンラインメディアサービスは、ITトレンドとBIZトレンドの2つですが、もっと増えて欲しいという期待はあります。
- 富田
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ありがとうございます。リード獲得のために、メディアサービスをより拡大して欲しいということですね。リストファインダーについてはいかがですか?
- 高橋氏
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弊社にとって新しい取り組みなので、他社の事例などをレクチャーしていただきながら、より効率的な活用につなげていきたいですね。
- 富田
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リストファインダーは、しっかり使っていただいてこそ意味のあるものですので、事例をまとめたり、活用セミナーを定期的に開催したりして、サポートをさらに強化していきたいと考えています。 最後に、マーケティングに関する今後の展開についてお聞かせください。
- 高橋氏
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人事評価制度というのは、BtoBの中でも目立たない商材ですから、来期は多少奇をてらった施策にも挑戦しようと、マスメディアを使った戦略を検討しています。弊社は全国展開して、ようやく顧客基盤を整えることができたので、もう少しマスに訴えるようなマーケティング活動にシフトし、企業価値を上げていきたい。それによって売上を前年比200%弱の20億円程度まで伸ばしたいと考えています。
- 富田
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すばらしいですね。弊社も見習わなくては(笑)。「インターネットを活用して法人営業を変革する」という弊社の掲げるテーマは実現可能だと感じていらっしゃいますか?
- 高橋氏
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もちろんです。ビッグデータを活用すれば、お客様にリーチする確度は上がっていくはずで、Webマーケティングは今後さらに高度化、効率化するというのが私の持論です。ただし、先ほど申し上げたように、リアルがあってこそよりレバレッジが効くのは事実ですから、そこを忘れずにやっていきたいですね。
編集後記
お伺いする前は、クラウドサービスなのに全国に拠点があり、どうやって生産性を向上させているのかを伺いたいと思いインタビューにのぞみました。
ところが、高橋社長は「クラウドサービス企業こそカスタマーサポートに力を入れ、労働集約型のビジネスモデルを構築すべき」とのこと。「リアルとWebのハイブリッド型マーケティング」は斬新です。クラウドサービスだからこそ、人によるサポートを強みにする、逆転の発想が成長のポイントです。徹底したPDCA、そして飽くなきマーケティングへのチャレンジも学ぶところが多いと思います。
ありがとうございました。