この数十年でB to C(消費者向け)のセールスは大きく変わり、Eコマースの割合が増えるなど、効率的にモノやサービスを消費者に届けるということに主眼が置かれるようになっています。対してB to B(法人向け)のセールスにおいては、インターネットが普及した今もあまり変わっていません。
法人営業が効率化しにくい理由として、日本の文化的・地理的要因があります。文化的要因は『膝を交える』という言葉があるように、直接会って話し、取引をしたいという気持ちが強いということです。また、B to Cとは異なり取引の金額が大きく、複数のキーマンがおり、長期にわたって検討するため、何度もお会いすることが求められます。地理的要因では、多くの企業が東名阪に集中し、特に大手中堅企業はほとんどが東京にあるため、すぐに訪問できてしまいます。この2つが、B to B分野での課題がなかなか解決されなかった主な理由です。
この課題を解決するには、3つのフェーズを改善することが鍵となります。「認知や見込み客を獲得するフェーズ」、「獲得した見込み客を育成し、営業に繋げるフェーズ」、そして「カスタマーサポート」の3つです。
イノベーションでは、見込み客を獲得するフェーズではオンラインメディア、見込み客を育成するフェーズではセールスクラウドのサービスを展開し、法人営業を変えていく手助けをしています。3つ目のカスタマーサポートについては、AIやチャットボット(自動会話プログラム)技術を活用するサービスなど、まだまだビジネス領域を広げる余地があると考えています。
これらのサービスの根底には、「働き方を変えていきたい」という想いがあります。法人営業を大きく変革することで、人にしかできないような、よりクリエイティビティの高い仕事に時間を割けるようにしたいというのが、私たちの願いです。これは働き方変革という国策にも合致した事業です。また、社会全体の働き方を変える第一歩として、私たち自身も「訪問しない営業」にトライしています。訪問しないことで生産性が向上し、低価格でのサービス提供も可能になっています。
現在、事業の柱となっているオンラインメディア事業とセールスクラウド事業は今後も強化していきたいと考えていますが、中長期的には新しいテクノロジーを使ったビジネスにも事業を拡大させていく予定です。例えば、イノベーションの「リストファインダー」「ITトレンド」には、アクセス履歴や行動履歴といったデータが蓄積されていますが、このデータと人工知能を活用して最適なタイミングでマーケティングのアドバイスをおこなったり広告の出し方を支援したりすることも可能でしょう。
さらに、日本で最も優良なビジネス会員を擁していると言われる日経BP(日本経済新聞と統一IDで登録者数は約800万人)とアライアンスを組み、web媒体の売り上げ向上のために私たちの知見を活かした新しいビジネスを立ち上げる計画もあります。他にも、名刺管理サービスや営業支援システム、メディアの領域でイノベーションと同じくB to Bマーケティングの課題解決に取り組む企業とのアライアンスなども進めています。
今後も成長を続けていく上で重要となるのが、一人ひとりのメンバーの成長だと考えています。イノベーションの行動指針の一つに、「自分の成長に投資を惜しまず、仲間の成長も支援します」というものがありますが、社内で浸透しています。
創業時から、クオーター(四半期)ごとにメンバーがキャリアにおいて何を大事にしているかを聞く面談の時間を設けています。特徴的なのは、面談は自分の上司でなくても良いということです。誰と面談したいかを選べる仕組みになっています。もちろん私が選ばれることもあります。メンバーの話にじっくりと耳を傾け、必要であれば異動しますし、新規事業を立ち上げるときに、面談で聞いたキャリア観を参考にして抜擢することもあります。
私のかばん持ちをしてもらっている内定者にもすでにブラザーシスター(メンター)がついていますし、入社一年目は所属部署以外の先輩社員をメンターにするなど、気軽に本音を話せるような仕組みにしています。メンターにとっては、自分に弟や妹ができるといった感覚のようです。上司部下という関係だけでなく、部署や役職を越えてお互いに助け合える文化が定着しているところは、私たちの強みだと考えています。
また、「任せる」文化も特徴的です。メンバーの配属に関しては、私は直接関わらずマネジャーに任せています。「優秀な人にいかに任せるか」、これは経営者の課題ではないでしょうか。優秀な人に任せられる組織は成長する、というのが私の持論です。
30名ほどの規模であれば、経営者がすべてを見るという形でもいいかもしれません。しかし、規模が拡大していくと、全てを見渡すのが難しく介入が中途半端になり、ずれた指示を出してしまう恐れがあります。そのため、経営者としては方向性だけを決め、責任ある仕事はマネジャーやメンバーに任せる方針にしました。2016年12月の東証マザーズ上場を期に、任せる範囲はさらに拡大しています。
リーダーは主役ではありません。達成感がある仕事や新しい仕事、皆に褒められるような刺激的な仕事こそ、メンバーに任せるべきです。私自身がこのような考え方なので、会社全体が「任せよう」という雰囲気になっています。重要な仕事を任されることでメンバーは成長します。そして、「自分も任せてもらったから、後輩にも任せよう」という意識が芽生え、良いスパイラルが生まれます。その結果、イノベーションは新人中心の活気がある職場になっています。
創業から16年経ち、事業のコアは5年のスパンで営業からマーケティング、そしてITへと変化してきています。しかし、それは事業領域をピボット(方向転換)しているという話ではなく、これまで培った知見や事業基盤にテクノロジーといった新たな要素をプラスして、イノベーションの独自性を築いていくプロセスです。
事業の変化に応じて求める人材像も少しずつ変化してきていますが、共通していることは、私たちが大事にしている「全ての働く人が仕事を通じて感動と成長を得られる世界にする」という経営理念に共感できる人に来てほしいということです。仕事を通じて感動と成長を得ることは、日本経済にとってはもちろん、本人やその家族にとっても大きなプラスになるでしょう。イノベーションは、そのような考え方に賛同できる人が活躍しやすく、目標を達成しやすい組織であると、自信を持って言えます。
その他のインタビュー