INNOVATION

インタビュー 「マーケティングイノベーター」 -BtoBマーケティングの変革事例-

株式会社ISAO

ゲーム業界から届ける オープン&フラットの哲学

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株式会社ISAO代表取締役の中村圭志氏と株式会社イノベーション富田直人

株式会社ISAOは、株式会社CSKの子会社として設立された。2008年にISP事業を株式会社ドリーム・トレイン・インターネットへ譲渡した後、2010年に豊田通商株式会社の連結子会社として再出発。当時赤字だった事業を整理・改善し、経営理念の見直しや組織改革によって大幅な黒字化を実現した。代表取締役の中村圭志氏とクラウドマネジメントサービス担当の湯川啓太氏に、同社の提供するサービスの特徴や、一連のサービスを生んだ同社の理念、さらに会社の大きな変革についてうかがった。

お客様プロフィール

株式会社ISAOオフィス

株式会社ISAO

代表取締役

中村圭志氏

クラウドマネジメントサービス担当

湯川啓太氏

設立 2010年2月
従業員数 216名(2016年10月)
資本金 1億5,000万円
事業内容
  1. ゲーム・エンターテインメント業界を中心とするサービス企画・開発・運営事業
  2. 課金・決済代行事業、サーバ構築・運用事業

イノベーションのサービス利用実績

  • ITトレンド
  • リストファインダー

独自のクラウドマネジメントサービス ゲーム業界から他業種へ展開

富田

まず現在の御社の業務についてご解説ください。

中村氏

弊社には企業向けのBtoBサービスと個人向けのBtoCサービスがあります。BtoBでは、今はプロジェクトリーダーの湯川を中心に、「くらまね」というクラウドマネジメントサービスを提供しています。具体的には、クラウド環境のセットアップから構築、運用、監視までを一括してサポートするサービスです。もともと弊社は、株式会社セガ・エンタープライゼス(現・株式会社セガゲームス)と株式会社CSKのジョイントベンチャーから始まっているので、ゲーム業界が本来のドメインですが、現在では、ターゲットを他業界にも拡大しています。また、カスタマーソリューション事業では、スマホゲームに対するカスタマーサポート的な仕事だけでなく、アートディレクションやKPI分析など、ゲーム運営をお手伝いするサービスを多岐にわたって展開しています。

富田

御社のスキルを求めているお客様がゲーム業界にたくさんいらっしゃるわけですね。

中村氏

もちろんスマホゲームに草創期から関わり、造詣の深いお客様もいらっしゃいます。ただ、ゲームは作れるけれども、イベントの企画や追加プランニングなど、よりよいゲームにブラッシュアップしていくノウハウが足りないお客様に対しては、われわれの知見でリードしています。

富田

御社はリスティングやSEO、コンテンツマーケティング、SNS、展示会、セミナーなどのマーケティング施策を実行されていて、「くらまね」のリードは月に100~300件ぐらいあるとうかがいました。

湯川氏

はい。「くらまね」を開始した2014年当初は、ゲーム会社のお客様が、ほぼ100%でしたが、今はターゲットを他業界にも拡大しています。リリース当時はちょうどエンタープライズといわれる大手企業領域やBtoBの商用サービスにまでクラウドの利用が広がってきている時期で、その波に乗りたいと考えました。また、継続して安定した商用サービスや基幹システムの案件を新しく取っていきたいという理由もあり、リスティング広告やWeb広告、展示会やセミナー、パートナーシップなどを駆使して新しいリード(見込み客)を獲得するようになりました。

富田

ゲーム業界で展開されてきたことを、一般的なWebマーケティングとして始められたわけですね。ご苦労や工夫された点を教えていただけますか。

湯川氏

はい。弊社は1998年発売の家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」(セガ・エンタープライゼス)の誕生とともに生まれた会社なので、ゲーム業界ではそこそこ有名なのですが、それ以外の業界ではまったく無名なのです。初期はWebマーケティングでリードをなかなか獲得できなかったので、展示会やセミナーなど、リアル施策を数多く展開しました。現在は、知見も貯まって、以前よりも効率的にできています。Webマーケティングでもランディングページの中身を改修したり、広告を出稿するようになったりしたことで適正化され、リードが増えてきています。

株式会社ISAOインタビュー風景

自社の組織改革をきっかけに誕生 独自のナレッジマネジメントツール「Goalous」

富田

御社が2016年にリリースされた、組織の目標達成までのアクティビティを可視化する社内SNS「Goalous」とはどんなツールですか? 社内SNSとプロジェクト管理ツールが一緒になったようなナレッジマネジメントツール、ととらえればよろしいでしょうか。

中村氏

新しいジャンルのアクティビティ共有ツールと、われわれは考えています。社員一人ひとりが日々のアクションをどんどん投稿し、全社で共有しながら、プロジェクトのゴールに近づいていくためのツールです。今は無料のベータ版ですが、2017年4月に有料化する計画です。機能としてはいわゆる社内SNS的なものですが、目標達成機能に特化しているのがユニークな点です。

富田

「Goalous」は、御社の風土作りの結果出てきたプロダクトだとうかがっています。

中村氏

はい。名刺にも記してあるように、弊社では2010年の再スタートにあたり、組織を“バリフラットモデル”へ移行、要するに管理職と階層をなくして、権限委譲を進めました。そうすることで、全社員が経営観を持ちながら、ビジョンに沿ったゴールを成し遂げていく形に変えたわけです。ただ、単純にフラットにするだけだと、必要な情報が足りずにクオリティの高い判断ができない。われわれは新入社員にもリーダーシップを求めますので、経営のリーダーである僕と新入社員の間に情報格差があってはいけない。であれば、情報はすべからくオープンにすべし、と。その哲学を支えるシステムとして「Goalous」は開発されました。社内では「Goalous」発の企画やアイデアが次々に生まれています。

富田

つまり、「Goalous」はオープン・フラットの哲学を体現するサービスということですね。

中村氏

ええ。今の時代、働くことに対するクオリティが非常に大事です。楽しく働かないといけないし、意味のある働き方をしないといけない。“バリフラット”の哲学は、閉塞感のある今の世の中において、なかなかイノベーションを起こしづらい、社員が一丸となりづらい、スピード感が足りない、効率化できない、そういう会社が求めるその先の道であると考えています。そして、それを支えるインフラになることこそが「Goalous」の目標なのです。

ビジョンの再構築により 赤字体質から大幅黒字へ

富田

2010年にCSKの資本から豊田通商の資本に変わり、“新生ISAO”になりました。そのときの状態を教えてください。

中村氏

経常利益は2009年に6億2千万円の赤字、2010年に4億3千万円の赤字だったのですが、そのときには7事業のうち6事業が赤字。黒字事業も年間数百万円の利益が出る程度でした。とにかくほぼすべてが赤字だったので、事業の取捨選択が非常に難しい状態でした。
もともと弊社は、CSKグループの中で事業開発や技術開発を担う先鋭部隊でした。自然と社員は利益を出すより、新しいことにチャレンジして、将来大きくなる新規事業の創出を狙うというメンタリティで仕事をしていました。ところが親会社のCSKがリーマンショックで破産寸前までいって、住商情報システムに救済合併されました。それまでに何百億円も弊社につぎ込んでいたといわれていますが、2006~07年ぐらいから、出資できなくなりました。2007年5月以降、2012年6月までずっと赤字で、僕が入った2010年当初、黒字を経験したことのない社員が8割ほどいたのです。
僕が社長になってから1年ぐらい社員に伝え続けたのは、「赤字は悪である」ということでした。ところが反応は「そうなの?」と。ビジネスでちゃんと収益を上げる経験がなくて、うまくいくイメージができないわけです。

富田

長い間、親会社がサポートしていればそうなるかもしれませんね。事業の取捨選択に手をつけ始めたのがいつごろですか。

中村氏

2011年度の始めです。1年ほどかけて、3つのポイントに焦点を当て、事業の取捨選択と再構成に取り組みました。まずリーダーが、その事業に深くコミットできているかどうか。2つ目は、本気で集中すれば、1、2年で黒字化できる計画を立てられるかどうか。3つ目は、当時、2011年に再定義した弊社のビジョン、“オープン・チャレンジ・キズナ”というスピリッツにそぐうかどうかでした。この3点をすべての事業に当てはめて、○×△をつけて取捨選択し、2012年頭までに事業整理をしました。

富田

その後、現在まで売上や利益はどのように推移したのですか?

中村氏

2012年7月からやっと黒字になって、それ以降は売上も利益も順調に推移しています。2016年の決算はこれからですが、2015年は経常利益で4億5千万円の黒字でした。

富田

5年間赤字続きだった会社を社長就任からわずか1年あまりで立て直されて、今では大幅な黒字を実現されていると。すばらしいですね。

株式会社ISAO中村氏

反発も大きかった社内のオープン化 人事制度の改変を通じ組織をフラットに

富田

並行して人事制度改革にも手をつけられたのですよね。

中村氏

はい。それまではプロフェッショナルな組織でしか通用しない裁量労働制を採用していました。当時の従業員アンケートで「裁量労働制だと遅刻しても怒られないのがいい」という回答があったんです(笑)。これをフレックス制、つまり普通の働き方に変えました。あとは待遇の見直し。経営・管理側の誰かが「こいつ好きだから」とお気に入りの社員を勝手に引き上げられないように、当時のマネジメント全員を集めて、評価の等級を定義し直しました。2~3年すると、リーダーシップを発揮している人が自然とリーダーになり、今のISAOの形ができあがりました。

富田

反発も大きかったのでは。声の大きな人が異を唱えると、皆を巻き込んでネガティブな働きをすることもありますよね。

中村氏

確かに政治的な動きもありました。「お前は中村派か、それとも俺派か」みたいな。情報のオープン化も、彼らの反発を招いた。役職の高い人が情報を持つと、その情報によって権力がより盤石になる。だから、経営や組織に関することや、今やっている事業については、あるときから全公開するというポリシーにしました。最初は当時の実力者が、社内SNSへの僕の投稿に対して、ちゃかすように「何だこれ」とコメントを入れたり、僕が投稿しても誰も反応しなかったりする時期が続きました。

富田

その方も自分のやり方で長くやっていらっしゃったわけですから、お気持ちもわからなくはないですが……。

中村氏

そうですね。自分のやってきたことを否定されるような気持ちになったのかなと。多分、彼らも会社の中で重要なポジションに就くまでは、非常に真剣に仕事に取り組んで成果を出してきたのでしょうが、やはり既得権限の領域で“一所懸命な働き方”がわからなくなってしまったのだと思います。

富田

オープンでない会社というのは、いったい何を隠すのでしょうか。

中村氏

たとえば、隣の席の社員がそのマネージャーと決めた目標って、一般社員はほぼ知らないですよね。それから、給料もオープンになっていない会社が多い。ひとつひとつの事業についても、周囲は進捗などの状況を知らない。あとはM&Aなどの経営情報。幹部は普通に話すけれど、一般社員はたいてい蚊帳の外ですよね。それですべての事業レビューを毎月やるようにしました。あとは週1回、キートピックスをアップデートするような朝会を会社のオープンスペースで開いています。これは誰が来てもいい。アルバイト社員もオーケー。日々のオープン化を、われわれはサービスとしてもやっているし、自社の運営でもやっているわけです。

富田

やはり、オープンでないと社員のモチベーションが下がるというか、相手にされていないんだと不安になって、どんどん会社との距離が離れる感じがします。自由度があって、かつ伝えるべき情報が伝わる仕組みが大事かもしれませんね。

中村氏

弊社には人事異動も存在しません。今までは8月に異動の話をして翌期の10月1日が異動日になりました。その間はレームダック(死に体)みたいになってしまいます。そこで、即日異動で透明性を担保するようにしました。

“誰かが偉い組織”は楽しくない 権力生む情報格差を排除

富田

組織改革で一番効いたのは何でしょうか? 人事制度ですか。

中村氏

オープン化が最大の影響を及ぼしていると思います。情報格差は、圧倒的な権力の格差を生み出します。たとえば普通、新人社員がアイデアを通すには、上司の承認が必要です。すると上司から、「いいアイデアだ。でもお前はこれを知っているか? うちの状況はこうで、人もお金も出せない。あの会社とうちは実はこんな問題を抱えているんだよ」と、知らない情報を出される。結果、いいアイデアではなくなった、ということはよくあります。情報を後出しされると絶対にその人には勝てないのです。

富田

それでは考える気をなくしますね。ただ、評価する人とされる人が不明確だったりすると、がんばるポイントがずれることがある。情報をオープンにしてもそうなる可能性はあるのでは。

中村氏

ある特定の権威者が評価するものから、われわれはどんどん離れようとしています。たとえば360度評価を全社員に拡大したり、僕がすべての社員から評価されるようにしたり。とにかく一方的に権威者が誰かを評価しないようにしています。最終的には何人かの評価を入れて人事委員会に上げます。人事委員会は恣意的で特殊なことが起きづらい組織、やり方にしています。

富田

しかし360度評価は、人によって評価するレベルや見ている視点、持っている情報が違うので、なかなか機能しにくいのではないでしょうか。実は弊社も試したことがあったのですが、社員が周りに気を遣い出したりして、うまくいかずに結局やめてしまいました。それで、誰がやっても同じになるように数値化し、上司が作ったものをまた上司がジャッジして、人事委員会で全部見て、ということを始めたんです。一度失敗しているので、そういう意見を持っているのですが。

中村氏

もちろん、弊社が推し進めている本当にフラットな組織形態“バリフラットモデル”になれば、シニアが社員の成長を見守るような仕組みが十分に機能しないなどの弊害は考えられます。ですので今は、フラットを維持しつつ、新しい形のコーチやメンターの制度をいかに作るかを考えています。繰り返しになりますが、機能としてのリーダーはいいけれど、この人はあの人より偉くない、という組織は楽しくないので、なんとしてもそこから脱したい。われわれは“楽しい”を生み出し、社会へ届ける会社として、ヒエラルキーをすべて排除しないといけないと思っています。

株式会社ISAO湯川氏

楽しくするサービスを届ける 自分をさらし成長の相乗効果生む

富田

一連の取り組みは、中村社長が独自に考えられたのですか。

中村氏

前職でヨーロッパ駐在時に会社を作らせてもらって、MBOや給与制度を苦労しながら作った経験が非常に活きています。ただ、ここまでオープンにしようという考えはなかった。実は今の「Goalous」のリーダーが、オープンについての哲学を持っていて、それに僕がかなり感化されてしまったんです。つまり、彼が教祖で僕がエグゼキューター(笑)。ただし、オープンにして「しまった」と感じたことはひとつもない。確かに最初はすごく忙しかったです。オープンにすると、いろいろなことを聞かれます。でも不思議なことに半年ぐらいで収まる。「こいつはこういう考え方でやっているんだ」と、皆がわかってくるから。今はもう聞かれないですね。

富田

バリフラットの理念や組織改革は、もちろん反発はあるにしても、普遍性があり、他の会社でも実行できる考え方だということでしょうか。

中村氏

できます。ただ、トップのコミットが一番重要です。トップさえしっかりしていれば、あとはスキルややり方の問題はありますが、何でもできると思っています。

富田

湯川様にお尋ねしますが、そういう会社のオープン・フラットな文化についてどう感じますか。先ほど社長がおっしゃったようなメリットを実感できていますか。

湯川氏

はい。「Goalous」のアクションで会社全体のことがおおよそわかります。月次の決算資料も全部出てきますし。採用途中の人の情報も全部上がってきますので、「今度僕も会わせてください」と気軽にいえます。皆が発信することで、情報を取りにいかずともなんとなく自然とわかり、興味のあるところには突っ込んでいけますね。

中村氏

かといって意外と情報の洪水にはならない。人のアクティビティの情報までバンバンきたら大変だとおっしゃる方も多いのですが、SNSは流し読みですから1つにつき1秒もかからない。しかもわれわれのサービスでは全部に写真をつけるので、基本写真を見ているだけです。メールが導入され始めた時代に、「メールなんか必要ない、FAXと電話で十分だろう」という人がいました。SNSも同じです。今、世の中は、メール文化からSNSへの変わり目かなという感じがしますね。

富田

処理の仕方を皆がだんだんわかってくるのですね。今後の方針はどのようなものですか。

中村氏

今の弊社の状況は、最悪な時期から立ち直って、ようやく世の中から「いていいよ」といっていただけるレベルに達したと考えています。ここから先は、「仕事を楽しくするサービスで世界を変えていこう」という自分たちのビジョンを叶えるために仕事をしていきます。日々成長していくためには、アクティビティをオープンにして、自分をさらしながら成長していくさまを皆に見せて、相乗効果を生み出す。そういうやり方で進んでいきたいと思っています。

富田

大変勉強になりました。ありがとうございました。

編集後記

数年前に億単位の赤字を出し続けていた会社をビジョンの見直しと、組織のフラット化・オープン化によって大きく立ち直らせた凄い事例です。中村社長の強い意志と組織構築力そして行動力が本当に参考になりました。ありがとうございました。

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