INNOVATION

インタビュー 「マーケティングイノベーター」 -BtoBマーケティングの変革事例-

株式会社ラクス

7年連続シェアナンバーワンを実現させた 営業・マーケティング成功の“秘訣”とは?

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株式会社ラクス中村氏、株式会社イノベーション富田

「IT技術で中小企業を強くします!」を企業理念に掲げ、中小企業向けの各種クラウドサービスを提供する株式会社ラクス(東京都渋谷区)。メール共有・管理に特化したメールグループウェア「メールディーラー」を7年連続シェアナンバーワンのサービスへと育て上げただけでなく、高速メール配信ツール「配配メール」や交通費精算・経費精算システム「楽楽精算」など、特徴的なサービスを次々にリリースし、2015年12月に東証マザーズへの上場を果たした同社。その成長を支えた営業・マーケティングの“心得”について、同社代表取締役社長の中村崇則氏に話を伺った。

お客様プロフィール

株式会社ラクス

株式会社ラクス

代表取締役社長

中村崇則氏

設立 2000年
従業員数 393名(2016年4月時点)
資本金 3億7,837万8千円 (2016年4月時点)
事業内容
  1. クラウドサービス事業
  2. レンタルサーバー事業
  3. IT技術者派遣事業

イノベーションのサービス利用実績

  • BIZトレンド
  • リストファインダー
  • WEBマーケティング

「とにかく試してみること」
が唯一の成功の秘訣

富田

まずは起業から現在までの沿革について教えてください。

中村氏

弊社は2000年にITエンジニアスクールをビジネスの主軸として起業しました。ただ、市場規模が非常に小さく、また労働集約型のビジネスなので、長く続けるのは難しかった。それで、スクール事業で得た利益を投下し、事業の軸足をITエンジニアの育成・派遣事業に移行すると同時に、エンジニアを活用した自社独自の各種クラウドサービスの提供を開始しました。そのひとつが、現在4,000社以上のお客様にご利用いただいているメール共有・管理システム「メールディーラー」です。

富田

7年連続売上シェアナンバーワンを誇る、御社のビジネスの柱ですね。ほかにも、高速メール配信ツール「配配メール」や交通費精算・経費精算システム「楽楽精算」など、さまざまなクラウドサービスを手がけていらっしゃいます。では、ビジネスをそのように展開される中で、営業・マーケティングの体制や方法はどのように変化していきましたか?

中村氏

弊社の場合には変化というより、効果のありそうなことをとにかく片っ端から試していった、という感じですね。雑誌広告やリスティング、アウトバウンドコール、展示会など、他社で効果が出ている方法を取り入れて、効果があれば続けます。

富田

フットワークを軽くして、新しいことにどんどんチャレンジしていったわけですね。

中村氏

そうですね。営業・マーケティングに限らず、経営全般についていえることだと思いますが、どんな方法でも、 “魔法”のようにすべてうまくいく方法はなく、また状況の変化によって効果は次第に薄れていきます。ですから、やるべきこと、新しいことをすべて試してみて、費用対効果のあるものを残していくしかないと考えています。

富田

おっしゃる通り、大きな予算でなくてもいいからとにかく始めてみて、うまくいったら続ける、というのが成功の秘訣かもしれません。そして成長している企業ほど、新しいことを取り入れる決断が早いと感じます。

中村氏

そうですね。そしてこれは、提供するサービスについても同様にいえることだと思います。どのサービスが成功するか、失敗するかは、作った時点ではわからない。なぜかというと、何かサービスを始めれば、それによって競合他社の行動が変化し、またそれに応じてこちらの行動も変わる、という未来の分岐が無数にあるからです。ですから結局、新しいサービスをどんどんリリースして、常に他社より先へ行くしかないと思うのです。
もちろんサービスを利用する側も同じです。とにかく試してみて、ダメだったら解約すればいい。まさにそういう点で、初期投資を抑えられ、気軽に始められるクラウドサービスはうってつけではないでしょうか。

富田

いろいろ試してみて、成功したら投資し、失敗したらやめる。当たり前のようでなかなかできない、きわめて重要なポイントだと思います。

株式会社ラクス 中村崇則氏 インタビュー風景

「失敗を恐れず挑戦しろ!」
経営側のメッセージが社風を変える

中村氏

実際、弊社がこれまでに提供してきたサービスも、すべてが成功したわけではなく、失敗したケースも少なからずあります。

富田

非常に興味深いお話です。たとえばどんなサービスですか?

中村氏

グループウェアは失敗でしたね。サービス名すら忘れてしまいました(笑)。今考えるとなぜ参入したのかわからないくらいです。ほかにも、飲食店のマッチングサイトは開始から5か月でやめましたし、アメリカで展開しようとしたSNSを使ったマーケティングサービスも全然儲からずに譲渡しました。

富田

実は弊社も同じぐらい失敗の経験がありまして……。失敗したときに大切なのは、いかに早くやめるかですよね。

中村氏

そう、できるだけ早くやめたほうがいい。ただ私は、「失敗していない」というのは「チャレンジしていない」というのと同義だと思っています。正しい意志決定というのは、知識と経験とが揃ってはじめて可能になる。その意味では失敗も必要ですし、それによってわかったこと、今に活きていることもあります。

富田

確かに、大きな失敗ほど将来の糧になります。ただ、御社にはほかに利益の出ているサービスがあったからこそ、それだけのチャレンジができた、という面もあるのでは?

中村氏

おっしゃる通りです。実は「メールディーラー」も当初は赤字でしたが、スクール事業で利益が出ていたからこそ投資できたのです。

富田

何がうまくいくかわからない、という先ほどのお話に当てはめれば、逆に今は黒字のサービスでも、5年後には赤字になる可能性もある、と。

中村氏

そうです。だからこそ、儲かっているときにできるだけたくさん失敗すべきなのです。私は今までにいくつものビジネスを手がけてきましたが、右肩下がりになってきてから新しいことに挑戦し、態勢を立て直すのは本当に大変でした。それから、ポートフォリオをきちんと組んで、各サービスの方向性と投資配分を見極めることが大切だと思います。

富田

なるほど。経営者としては非常に勉強になります。一方で現場としては、社内での評価が下がるのを気にして、どうしても失敗を恐れて保守的になりがちですよね。

中村氏

そういう傾向は確かにあります。ですから弊社では、経営者や管理職が常々、「失敗してもいいからチャレンジしろ」というメッセージを発信し続けています。特にマーケティングに関しては、クリエイティブであることが大切ですから、失敗を恐れずに攻め続けたほうがいい。経営者の仕事は、それをやりやすい環境を整え、後押しすることにこそあると思います。

富田

経営側が「むしろ失敗したほうがいい」ぐらいのことを常にいい続けていれば、次第に失敗を恐れない社風になってくる、と。

中村氏

そうですね。「うちは失敗してもいい会社なんだ」というマインドにだんだん変わってくると思います。

株式会社ラクス 中村氏と株式会社イノベーション 富田 インタビュー風景

数値管理を徹底し
費用対効果をシビアに見極める!

富田

そのほかに、御社の営業・マーケティングにおいて、成功の要因になっていると考えられることは?

中村氏

さまざまな施策を始める前に、KPIをしっかり設定することでしょうか。施策を続けるのか中止するのか、その決断の根拠となる数値を明確にして、必ず数値で語るようにする。チャレンジを推奨する代わり、そこは厳格にしなくてはなりません。経営側としても、効率と費用対効果を重視する姿勢を現場に対して示すよう心がけています。

富田

「必ず数値で語る」ですか。そこまで徹底している企業は、日本にはあまり多くないかもしれませんね。

中村氏

いや、数値管理の徹底度合いでいうと、弊社は一般的な日本企業と比較すれば多少意識しているという程度で、おそらくシリコンバレーのITベンダーなどと比べればまだまだ緩いと思います。

富田

ぜひそのあたりを詳しくお教えください。どう緩いのでしょうか?

中村氏

たとえば御社では、サービスに新機能を追加したとき、それがお客様にどれぐらい利用されているかを計測していらっしゃいますか?

富田

うーん、あまり考えたことがないですね……。

中村氏

アメリカの企業はそういうことをやっている。この機能は使われていないから改良しなくては、と。

富田

投資して開発したわけですから、当然といえば当然のことですよね。

中村氏

そうなんです。ところが、弊社を含めて日本企業の多くは、そういうことをちゃんとやっていない。だからアメリカで戦えない。

富田

耳の痛いお話です。日本国内だと緩い企業同士だから戦えているだけで、アメリカの企業が参入してくるとやられてしまう。

中村氏

そうなんです。国内でもっと切磋琢磨しながら、全体的にレベルアップしないといけない。

富田

弊社はITトレンドというメディアを持っていて中立な立場にありますから、こういう場を通じて、今おっしゃったようなことを啓蒙していきたいですね。

株式会社ラクス 中村崇則氏

勝利の方程式は
“競合を圧倒するリソース投下”

富田

御社のクラウド型経費精算システム「楽楽精算」は、誰でも直感的に使える操作性に定評があり、国内累計導入実績1,500社超のサービスです。そのほかにも複数のサービスを展開して実績を伸ばしていく上で、どんな施策に取り組まれましたか?

中村氏

最近、割とうまくいった施策として挙げられるのは、営業拠点を増やしたことですね。

富田

しかし、クラウドサービスの場合、拠点を増やすと固定費が上昇して、投資対効果が出るまでに時間がかかってしまいますよね。

中村氏

一般的にはそうですが、弊社の場合、複数のサービスを展開していることが有利に働いている面はあると思います。たとえば、お客様から「配配メール」についてのお問い合わせがあって、たとえそれが売れなくても、それなら「メールディーラー」はいかがですか、という売り方ができる。そういう優位性はあるかもしれません。

富田

なるほど。それでは今後も、拠点と人員をさらに増強していく方針なのですね。

中村氏

はい。お客様のニーズにお応えする上で肝心なのは、いかに速く開発して営業するか。そして、開発にせよ営業にせよ、より多くの人員で取り組めばそれだけ迅速に行えるのは自明です。ですからこれからも、競合他社がついてこられないぐらいどんどんリソースを投下していく予定です。

富田

50人のチームと100人のチームとが戦えば、当然ながら後者が勝つ、ということですね。人員や資金が多いほどニーズにすばやく対応して開発でき、営業もスピーディに、丁寧に行うことができる、と。

中村氏

そうです。「楽楽精算」は当面赤字だと思います。よりよいサービスにするため、さらに投資していく。競合他社の資金が尽きるまでこちらが投資し続ければ、いずれ競合他社はステージから降りざるを得なくなります。使えるお金の絶対量の多い弊社は負けないはずですから、「これからもお金をどんどんつぎ込んでいくよ」という姿勢をアピールして、他社を萎縮させることが大切だと考えています。

富田

なるほど。ただ、日本の株式市場に上場すると、短期的な利益を求める声に応えなくてはならず、上場前より動きにくくなる、という声も聞かれますが……。

中村氏

そういう面も確かにありますが、自分たちがその方針を正解だと信じているなら、そこは投資家に丁寧に説明して、理解を得るべきだと思います。たとえそれによって短期的な投資家が離れていったとしても、経営者の責務はあくまで中長期的な企業の成長を実現させることにあるわけですから。

富田

おっしゃる通りですね。大変参考になるお話をありがとうございました。

編集後記

「失敗してもいいからチャレンジしろ!」。変化の早い時代だからこそマーケティングだけでなく事業も新たなものに挑戦していく姿勢の重要性を改めて感じました。そんなチャレンジングな社風の中でも厳格なルールで運営していく。クラウドサービスを提供している会社にはとても参考になるインタビューでした。中村社長、本当にありがとうございました。

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